・・・ また古来士風の美をいえば三河武士の右に出る者はあるべからず、その人々について品評すれば、文に武に智に勇におのおの長ずるところを殊にすれども、戦国割拠の時に当りて徳川の旗下に属し、能く自他の分を明にして二念あることなく、理にも非にもただ・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 戦国時代ある大名の夫人が、戦いに敗れてその城が落ちるとき、実父の救い出しの使者を拒んで二人の娘とともに自分の命をも絶って城と運命を共にした話は、つよく心にのこすものをもっていると思う。当時の男のこしらえた女らしさの掟にしたがって、その・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・だから結婚などと申しましても、何も女の幸福ということが眼目ではございませんで、昔からたくさんあるいろいろなお話をお読みになってもわかる通りに、戦国時代の女の人と申しますのは、父や兄という人達が戦略上自分が一番喧嘩しそうな敵へ人質として自分の・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・そして道を距てた前に民芸館と称する、同スタイルの大建築がまるで戦国時代の城のように建ちかけている。木食上人、ブレーク、アルトの歌手。それとこの家! 実にびっくりして凄いような気がしました。Yの父は三井の大したところの由。私はブリティシュ・ミ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・やがて戦国時代に入る。ヨーロッパにルネッサンスの花が開きはじめた時代から日本が武家時代に入ったということを、私たちは忘れてはならないと思う。この事実は明治維新に影響し、今日の日本の民主化の問題に重大な関係をもっているのである。 武家時代・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・「ひかげの花」の境地には賛成しているのである。「戦国時代には、弱者たる普通の民衆は、戦々きょうきょうとしてその日その日をどうにか生き延びていたであろうが、せちがらい今日『ひかげの花』の男女が、どうにか生きのびているのも同じ訳ではあるまいか」・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・それにもうかがわれるとおり一九一八年に敗戦国となったドイツの人民はカイゼルの軍国主義政治、植民地をひろげようとする侵略政策をやめて、当時発達していたドイツの科学と工業の実力で平和で人民的な生産様式をもつ国――社会主義の要素の多い社会に前進し・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ 戦国時代にこうして一旦崩れ分散した支配権力は、信長によって、或る程度まとめられた。織田信長は当時の群雄たちの中では、誰よりも早く新らしい戦術を輸入した。種子島へ来た鉄砲をどっさり買い込んで、自分の歩兵を武装させ機動的な戦争の方法を組織・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・このようなところにも世の乱れとてぜひもなく、このころ軍があッたと見え、そこここには腐れた、見るも情ない死骸が数多く散ッているが、戦国の常習、それを葬ッてやる和尚もなく、ただところどころにばかり、退陣の時にでも積まれたかと見える死骸の塚が出来・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・虚飾に流れていた前代の因襲的な気風に対して、ここには実力の上に立つあけすけの態度がある。戦国時代のことであるから、陰謀、術策、ためにする宣伝などもさかんに行なわれていたことであろうが、しかし彼は、そういうやり方に弱者の卑劣さを認め、ありのま・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫