・・・ だが、この両管領との合戦記は、馬琴が失明後の口授作にもせよ、『水滸伝』や『三国志』や『戦国策』を襲踏した痕が余りに歴々として『八犬伝』中最も拙陋を極めている。一体馬琴は史筆椽大を以て称されているが、やはり大まかな荒っぽい軍記物よりは情・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・そういう意味では失敗作だったが、逞しい描写力と奔放なリアリズムの武器を持っている武田さんが、いわゆる戦記小説や外地の体験記のかわりに、淡い味の短篇を書いたことを私は面白いと思った。嘘の話だからますます面白いと思った。しかも強いられた嘘ではな・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・いつか新聞で、かれの自戦記を読んだが、あの文章は、忘れがたい。曰く「われは横綱らしく強いところを見せようとして左の腕を大きくぶるんと振って相手を片手で投げ飛ばそうとしたが、相手は小さすぎて、われの腕はむなしく相手の頭の上を通過し、われはわが・・・ 太宰治 「男女川と羽左衛門」
・・・『テラス』や『ロマンス』などのような雑誌が、この頃ルポルタージュと称して戦記ものを記載しているのは、偶然のことでしょうか。去年の初夏、日本出版協会は『テラス』『ロマンス』などからはじまってとくに猥雑なエログロ出版の氾濫を整理しようとして・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・元海軍中将であるこの筆者は、その達筆な戦記のなかにきわめて効果的に自然に「しからばこのときどうすることがよかったか。結果論のようではあるが私は戦闘機なしでも出すべきであったと思う」と、さながら戦況の不利を目の前に見ているように「何という無念・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
去る六月十一日、読売新聞の「世界への反逆」という文章で中島健蔵氏が、記録文学の名のもとにジャーナリズムにあらわれはじめた戦記ものの本質について注意をよびおこしたのは適切であった。 本年のはじめごろ『雄鶏通信』が国外のル・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・持って来た本もよみつくした私は、一日の中、半分私が顔を知らないうちに没した先代が、細筆でこまごまと書き写した、戦記、旅行記、物語りの本に読みふけって居る。若しそうでない時は、炬燵で祖母ととりとめもない世間話しや、祖母の若い時分の話をきくので・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・「勝沼戦記」村山知義。 本多顕彰氏は月評の中で「勝沼戦記」は戦いを暗い方から描いたもの、「明治元年」は明るい方から書いたものという意味の短評をしていられた。「勝沼戦記」は伏見鳥羽の戦いに敗れて落ちめになってからの近藤勇と土方歳三とが・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫