・・・そんな所論を見つけたわけだ。ケエベル先生は、かの、きよらなる顔をして、「私たち、なかなかにこのダス・ゲマイネという泥地から足を抜けないもので、――」と嘆じていた。私もまた、かるい溜息をもらした。「ダス・ゲマイネ」「ダス・ゲマイネ」この想念の・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・かつてどこかで、人形の顔は何ゆえにあんなにグロテスクでなければならぬかということに関する三宅周太郎氏の所論を読んで非常におもしろいと思ったことがあった。今はじめて人形芝居を実見して、なるほどと思い当たるのであった。なるほど、もしも人形の顔な・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・その後エイゼンシュテインの所論を読んだときに共鳴の愉快を感ずると同時に、彼が連句について何事も触れていないのを遺憾に思った。おそらく彼はほんとうの連句については何事も知らないからであろう。 映画と連句 あらゆる芸術の・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ このとんぼの問題が片付くまでは、自分にはいわゆる唯物論的社会学経済学の所論をはっきり理解することが困難なように思われるのである。 三 三上戸 あるビルディングの二階にある某日本食堂へ昼飯を食いに上がった。デパー・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・とは事変るが、アインシュタインの相対性原理がまだ十分に承認されなかった頃、この所論に対する色々な学者の十人十色の態度を分類してみると、この『徒然草』第百九十四段の中の「嘘に対する人々の態度の種々相」とかなりまでぴったり当て嵌まるのは実に面白・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・自分の上述の所説の中には和辻氏の従来すでに発表された自然と人間との関係についての多くの所論に影響されたと思われる点が少なくない。また友人小宮豊隆・安倍能成両氏の著書から暗示を受けた点も多いように思われるのである。 なお拙著「蒸発皿」に収・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・しかし、そういう題目については従来多くの先輩の各方面からの所論や説述があり、私自身にもすでにいろいろな場所で繰り返して私見を述べて来たことであるから、今さらにまた同じことを繰り返したくないような気がする。それでここではむしろ少しちがった角度・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・しているために一巻に特殊な色彩の律動を示していることは疑いもないことであるが、ただもし凡兆型の人物ばかりが四人集まって連句を作ったとしたらその成績はどんなものであるかと想像してみれば、おのずから前述の所論を支持することになるであろうと思われ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・もし以上の如き珍々先生の所論に対して不同意な人があるならば、請う試みに、旧習に従った極めて平凡なる日本人の住家について、先ずその便所なるものが縁側と座敷の障子、庭などと相俟って、如何なる審美的価値を有しているかを観察せよ。母家から別れたその・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・ ゾラの所論によると昔の巴里人は郊外の風景に対して今日の巴里人が日曜日といえば必ず遊びに出掛るような熱心な興味を感じてはいなかった。その証拠は時代風俗の反映たるべき文学を見ても、十七、八世紀の文学上には一ツとして今日の抒情詩人が歌ってい・・・ 永井荷風 「夏の町」
出典:青空文庫