・・・ そして、若し我々が、自分を知り人生の大道に生きようとするだけの力があれば、自己の生命にあらゆる責任と義務とを感じて、軽々しく外界の刺戟、無責任な煽動によって破滅に導くことも、図に乗らせることも、ともになし得ないのではあるまいかと思う。・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・筆者がこの数万語で煽ろうとしている民族の対立は本能である、というにくむべき侵略主義の煽動、ソヴェト同盟についての非科学的なデマゴギー、「第二次世界戦争発端」という題名の仮面の下にたくみに満蒙事件の拡大の可能を暗示しているあたり、毒々しいもの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・フランスとドイツとの伝統的な恨みというようなものは、芸術が交流して来たあとを見ても事実としては存在しないこと、その言葉は大衆の祖国愛を利己的に利用しようとする戦争煽動者の口ぐせにすぎないということを、フランスの若い世代はよく理解している。そ・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・無政府党事件としては一番大きい Jura の時計職人の騒動も、この人が煽動したのだ。瑞西にいるうちに、Bern で心臓病になって死んだ。それからクロポトキンだが、あれは Smolensk 公爵の息子に生れて、小さい時は宮中で舎人を勤めていた・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・これが先ず感覚の或る一つの特長だと煽動してもさして人々を誘惑するに適当した詭弁的独断のみとは云えなかろう。もしこれを疑うものがあれば、現下の文壇を一例とするのが最も便利な方法である。自分は昨年の十月に月評を引き受けてやってみた。すると、或る・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・母親が煽動に乗せられているのを思うと、別に大工の手にかけて棺を造ろうかと思った。が、しかし一々秋三に反抗するのもあまり大人気ないように思われた。が、何かにつけて自分の弱味――安次を組の手に押し附けたと云う此の弱味、それは自分の知らないことだ・・・ 横光利一 「南北」
・・・先生がインドにおいてどういうふうに独立を鼓吹したか、あるいは美術院の画家たちにどういうふうに霊感を与えたか、さらにまた五浦の漁師たちをどういうふうに煽動して新式の網を作らせたか。それらのことについては自分は何も知らない。しかし先生が最もよき・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
・・・マダム・ボヴァリーを読んで姦通を煽動されるとか、ロダンの「接吻」を見て肉欲を刺戟されるとか、そういう場合はあるに相違ない。題材が恋愛、性欲等であり、その題材自身が不倫な恋や肉欲の興味をそそり得る場合には、確かに風俗壊乱という影響を公衆の或る・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫