・・・「何と云って君はジタバタしたって、所詮君という人はこの魔法使いの婆さん見たいなものに見込まれて了っているんだからね、幾ら逃げ廻ったって、そりゃ駄目なことさ、それよりも穏なしく婆さんの手下になって働くんだね。それに通力を抜かれて了った悪魔・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・に裂け開けているその間に身を隠して、見咎められまいと潜んでいると、ちょうど前に我が休んだあたりのところへ腰を下して憩んだらしくて、そして話をしているのは全く叔父で、それに応答えをしているのは平生叔父の手下になってはぐ甲助という村の者だった。・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・悪鬼どもが彼の手下である。その国が何処にあるかは明瞭でない。天と地との中間のようでもあり、天の処という場所か、または、地の底らしくもある。とにかく彼は此の地上を支配し、出来る限りの悪を人に加えようとしている。彼は人を支配し、人は生れながらに・・・ 太宰治 「誰」
・・・ メッサーの手下が婚礼式場用の椅子や時計を盗みだすところはわりによくできている。くどく、あくどくならないところがうまいのであろう。倉庫の暗やみでのねずみのクローズアップや天井から下がった繩にうっかり首を引っかけて驚いたりするのも、わざと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・門番のおばさんでも、気の変な老紳士でも、メーゾン・レオンの亭主でも、悪漢とその手下でも、また町のオーケストラでも、やっぱり縦から見ても横から見てもパリの場末のそれらのタイプである。 レオンの店をだされたアンナが町の花屋の屋台の花をぼんや・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 春になりますと、またあの男が六七人のあたらしい手下を連れて、たいへん立派ななりをしてやって来ました。そして次の日からすっかり去年のような仕事がはじまりました。 そして網はみんなかかり、黄いろな板もつるされ、虫は枝にはい上がり、ブド・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・あとのあの何とも云われないきびしい気持をいだきながら、ファゼーロがつめくさのあおじろいあかりの上に影を長く長く引いて、しょんぼりと帰って行った、そこには麻の夏外套のえりを立てたデストゥパーゴが三四人の手下を連れて待ち伏せしている、ファゼーロ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・、タイピストか何か、始めて自分の小使を父のために使う その心持、 娘、あの職業婦人タイプ 武藤のこと 彼女の体 眼つき 押しのつよさ 独占慾 子供や同輩を皆手下あつかいにする。淋しさから来るそうい・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・Yの洋装に田舎の子らしい反感を持ったのと、手下どもに己を誇示したかったのとが、偶然この少年をして「殴られる彼奴」にした原因だ。帰り、天主堂の坂下にその少年、他の仲間といたが、Yを認めると背中に括りつけられた隠し切れない旗じるしをひどく迷惑に・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫