・・・ これは、私にとって、特殊的な場合でありますが、長男は、来年小学校を出るのですが、図画、唱歌、手工、こうしたものは自からも好み、天分も、その方にはあるのですが、何にしても、数学、地理、歴史というような、与えられたる事実を記憶したりする学・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・そして学校で手工にはさみがいることになりました。「英ちゃんが持っていくのに、ちょうどあぶなくなくてこのはさみがいいでしょう。」と、お母さんが、赤いひものついているはさみをお出しになりました。 はさみはまた筆入れの中にいれられて、その・・・ 小川未明 「古いはさみ」
・・・なんでもああいう児には静かな手工のようなことが一番好いで、そこへ私も気がついたもんだで、それから私も根気に家の仕事の手伝いをさせて。ええええ、手工風のことなら、あれも好きで為るわいなし。そのうちに、あなた、あれも女でしょう。あれが女になった・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・おせんは編物ばかりでなく、手工に関したことは何でも好きな女で、刺繍なぞも好くしたが、終にはそんな細い仕事にまぎれてこの部屋で日を送っていたことを考えた。 悲しい幕が開けて行った。大塚さんはその刺繍台の側に、許し難い、若い二人を見つけた。・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・けれども、どの辞書にも、「手工の巧みならん事を祈るお祭り」という事だけしか出ていなかった。これだけでは、私には不足なのだ。もう一つ、もっと大事な意味があったように、私は子供の頃から聞かされていた。この夜は、牽牛星と織女星が、一年にいちどの逢・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・その代り生徒に何かしら実用になる手工を必修させ、指物なり製本なり錠前なりとにかく物になるだけに仕込んでやりたいという考えである。これに対してモスコフスキーが、一体それは腕を仕込むのが主意か、それとも民衆一般との社会的連帯の感じを持たせるため・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 紙の色は鈍い鼠色で、ちょうど子供等の手工に使う粘土のような色をしている。片側は滑かであるが、裏側はずいぶんざらざらして荒筵のような縞目が目立って見える。しかし日光に透かして見るとこれとはまた独立な、もっと細かく規則正しい簾のような縞目・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・公園の樹の梢へつるす鳥の巣箱を小学校の子供は手工でこしらえる仕度をし、中央児童図書館では、一つの本棚が五ヵ年計画、集団農場、国営農場、その他一般農作と春の動植物についての本でおきかえられた。 ――これが我々に一番骨の折れる、大切な仕事な・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・「吉は手工が甲だから信楽へお茶碗造りにやるといいのよ。あの職人さんほどいいお金儲けをする人はないっていうし。」 そう口を入れたのはませた姉である。「そうだ、それも好いな。」 と父親は言った。 母親だけはいつまでも黙ってい・・・ 横光利一 「笑われた子」
・・・またスーダンの国家の特有の組織はイスラムよりもはるか前からあり、ニグロ・アフリカの耕作や教育の技術、市民的な秩序や手工芸などは、中央ヨーロッパにおけるよりも千年も古いのである。「アフリカ的なるもの」は、要約して言えば、合目的的、峻厳、構・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫