・・・勿論、退屈な時、手当り次第に雑誌でも繙くように其場かぎりな、相手にも自分にも責任をもたない気分で目だけ楽しませようと云うのならば何も云うべきことはない。けれども、現在は兎に角、将来の長い時間の為に、女優劇は、今のような、一段、気を許した雰囲・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 先ずその人は、大冊十六巻からなるその作品の量を見て、このバルザックという人はよくもこれだけ書けたものだと一驚しながら、手当り次第に、その一冊をとりあげ、疑いぶかそうな様子で、どこかの頁をあける。偶然こういう言葉に出くわす。「最も優雅な・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 手当り次第傍の湯呑の中に入れる。「おや、あの壁にもついている――そう云えば……君や、一寸おいで」 大柄な、手など薄赤くさっぱりした看護婦が、「何か御用ですか、私が致しましょう」と云った。「いいえね、さっき手水に行っ・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫