・・・お妻が手拍子、口三味線。 若旦那がいい声で、夢が、浮世か、うき世が夢か、夢ちょう里に住みながら、住めば住むなる世の中に、よしあしびきの大和路や、壺坂の片ほとり土佐町に、沢市という座頭あり。……妻のお里はすこやかに、夫の手助け・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・律動的な音は子供でも野蛮人でも自然に踊り出させるのであるが、無声無伴楽映画のかなり律動的な場面を見ても、訓練されない観客はなかなか足拍子手拍子をとるような気分にはならないのである。それで、発声映画において視覚のリズムと照応した物音の律動的駆・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・夜のふけるに従って歌の表情が次第に生き生きした色彩を帯びて来た。手拍子の音が気持ちよくそろって来るのは妙なものである。 十七日は最終の晩だというので、宵のうちは宿の池のほとりで仕掛け花火があったりした。別荘の令嬢たちも踊り出て中には振袖・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ 土人が二人、甲板で手拍子足拍子をとって踊った。土人の中には大きな石鹸のような格好をした琥珀を二つ、布切れに貫ぬいたのを首にかけたのがいた。やはり土人の巡査が、赤帽を着て足にはサンダルをはき、鞭をもって甲板に押し上がろうとする商人を制し・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 音楽の最も簡単なものを取ってみると、それは日蓮宗の太鼓や野蛮人の手拍子足拍子のようなもので、これは同一な音の律動的な進行に過ぎない。これよりもう少し進歩したものになると互いに音程のちがった若干種類の音が使われるようになって、そこにいわ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ そのお婆さんは、自分で手拍子を取りながら、唄を謳って、四つの孫に「春雨」を踊らせていた。子供は扇子を持って、くるくる踊っていたが、角々がきちんと極まっていた。「お絹ばあちゃがお弟子にお稽古をつけているのを、このちびさんが門前の小僧・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ すると止ったデモの中に、いつかしら輪が出来て、元気な手拍子、口笛で昔からあるロシア踊りを若い連中がおどり出す。 向うの方でも負けてはいない。コーカサス地方の服装をした労働婦人が、長い白絹の布を手にもって、やさしい故郷の踊をおどりは・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
出典:青空文庫