・・・思いついたように夫に相談する、利助は黙々うなずいて、其のまま背戸山へ出て往った様だった、お町はにこにこしながら、伯父さん腹がすいたでしょうが、少し待って下さい、一寸思いついた御馳走をするからって、何か手早に竈に火を入れる、おれの近くへ石臼を・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・棺は恐ろしく手早に火葬竈に入れられ、鉄扉が閉った。帰りの自動車の中で、涙が流れて仕方なかった。私はすぐくっついて腰かけている父に気づかれまいとして、そろそろ灯のつき始めた街路の方に顔を向け、涙を拭きもせず黙っていた。父は、少し来てから、親切・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ 斯う女は思って先にかがみの前でした様な様子を、器用に手早にさせて男の肩を両手でゆすぶった。 二人は崩れた様に笑った。「何さっきあんなけんけんした声を出した?」 男は女の小指をひっぱりながら目を見て云った。「何故って、か・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫