・・・作画に対する根本の出発点が既にこういうところにあるとすれば津田君の画を論ずるに伝説的の技巧や手法を盾に取ってするのはそもそも見当違いな事である。小笠原流の礼法を標準としてロシアの百姓の動作を批評するようなものかもしれない。あるいはむしろ自分・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・これはよくやる手法である。それがうまく行っている場合には、観客は実際自分の目がそっちへ向くように感じる。しかし実は動かぬスクリーンを見つめているのである。この効果の最も著しく感ぜられる場合は、たとえば茂みの中を鉄砲を持って前進する猟者を側面・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・リアリズムは、人間の生きる社会とその階級の歴史と個人の複雑な発展の諸関係を、社会の歴史と個人の諸要因の綜合的な動きそのものの中で現実的に掴もうとする本質によって、文学の最も強固な手法である。リアリズムが人間の芸術表現にとって大地のような性質・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・威で文壇を封鎖している旧いブルジョア文学にはあき足らず、さりとて無産階級の文学運動に対しては自分たちの属している社会層の小市民風な生活感情から共感がもてず、どちらに向っても抵抗しながらドイツの表現派の手法を模して漠然と新しい生活と芸術の感覚・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ ぞろぞろ手法の模倣者が出た位鋭いものを持ってはいたが、本当に闘争するボルシェビックなプロレタリアートはしんからグロッスの漫画を好きになれなかった。 グロッスはアナーキスト的な世界観で、階級的醜と悪とを暴露したのはいいが、暴露しっぱ・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ 後年光琳の流れのなかで定式のようになった松の翠の笠のような形に重ねられる手法、画面の中央を悠々とうねり流れている厚い白い水の曲折、鮮やかな緑青で、全く様式化されながらどっしりと、とどこおるもののない量感で据えられた山の姿、それらは、宗・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・映画の芸術的現実の中から人間再出発の新しい典型を見ることは困難であった。監督アウグスト・ジェニーナは人間再出発の自然的条件として沙漠というものを実に根気よく繰り返し繰り返し見せている。映画の手法、映画の持っている便利なテンポを全く無視する程・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・リアリズムの手法としては、志賀直哉のリアリズムが、洋画史におけるセザンヌの位置に似た存在を示してきた。 一九一八年第一次世界大戦終了の後、日本にも国際的な社会変化の波濤がうちよせ、人間性の展開および文学の発展の基盤としての社会性の問題が・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 音楽にも民族の性格が顕著なのは自然だが、その自然なものを扱う手法には、種々の不自然さが生じているのが現代社会の一つの悩みであり、課題でもある。この間の「悲愴」の美しさから思いめぐらしても、音楽にある民族的な特性というものを、音楽の外か・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・チェホフは知られているとおり、トルストイと同時代の芸術家として、トルストイとはまた異った芸術の手法をもちつつ人間生活の非人間性を心から苦しく思っていた作家である。「可愛い女」に描かれている女主人公の生きかたは、女の動物的な悲しく滑稽な男性へ・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
出典:青空文庫