・・・手伝をしたり、村役場の小役人みたようなことをしたり、いろいろ困苦勤勉の雛型その物の如き月日を送りながらに、自分の勉強をすること幾年であった結果、学問も段進んで来るし人にも段認められて来たので、いくらか手蔓も出来て、終に上京して、やはり立志篇・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・値段も大いに高いけれども、しかし、それよりも、之を求める手蔓が、たいへんだったのである。お金さえ出せば買えるというものでは無かったのである。私はこのウイスキイを、かなり前にやっと一ダアスゆずってもらい、そのために破産したけれども後悔はせず、・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・もちろん天下の秀才が出るものと仮定しまして、そうしてその秀才が出てから何をしているかというと、何か糊口の口がないか何か生活の手蔓はないかと朝から晩まで捜して歩いている。天下の秀才を何かないか何かないかと血眼にさせて遊ばせておくのは不経済の話・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ある時大臣の夜会か何かの招待状を、ある手蔓で貰いまして、女房を連れて行ったらさぞ喜ぶだろうと思いのほか、細君はなかなか強硬な態度で、着物がこうだの、簪がこうだのと駄々を捏ねます。せっかくの事だから亭主も無理な工面をして一々奥さんの御意に召す・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 馬は槽の手蔓に口をひっ掛けながら、またその中へ顔を隠して馬草を食った。「お母ア、馬々。」「ああ、馬々。」 六「おっと、待てよ。これは悴の下駄を買うのを忘れたぞ。あ奴は西瓜が好きじゃ。西瓜を買うと、俺・・・ 横光利一 「蠅」
出典:青空文庫