・・・ 一カ月の後、彼女は、別の、色の生白い、ステッキを振り振り歩く手薄な男につれられて、優しく低く、何事かを囁きながら、S町への大通りを通っていた。 虹吉も家を捨てた。六 そして、僕が、兄に代って、親を助けて家の心配をし・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・これと同じように平生地震というものの災害を調べているものの目から見ると、この恐るべき強敵に対する国防のあまりに手薄すぎるのが心配にならないわけには行かない。戦争のほうは会議でいくらか延期されるかもしれないが、地震とは相談ができない。 大・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・山が焼ければ間接には飛行機や軍艦が焼けたことになり、それだけ日本が貧乏になり国防が手薄になるのである。それだけ国民全体の負担は増す勘定である。 いずれにしても今回のような大火は文化をもって誇る国家の恥辱であろうと思われる。昔の江戸でも火・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
出典:青空文庫