・・・文学とは、恋愛を書く事ではないのかしらと、このとしになって、ちょっと思い当った事もありましたので、私の最近の行きづまりを女性を愛する事に依って打開したい等、がらにもない願望をちらと抱いた夜もあって、こんどの旅行で何かヒントでも得たら、しめた・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・そういう場合に、突然にどこからか現われて来て新生面を打開するような対象が、往々それまではほとんど物理学の圏外か、少なくも辺鄙な片すみにあって存在を忘れられていたような場合であることもあえて珍しくはないのである。たとえば昔ある僧侶の学者が顕微・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・戦争によってこれだけ深い犠牲をはらった全日本の女性の、将来の戦争と再びはびころうとしているファシズムへのつよい反対がないならば、女性の苦痛にみちたきょうの生活そのものが打開されてゆく道はまったくないのである。 婦人に向けられる失業や、女・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・イギリスでマクドナルドの労働党が多数をしめて労働党内閣となったのも、生活を打開しようとする大衆の要望のあらわれであった。しかし、ごく表面しか見ることのできない一人の婦人旅行者であるわたしの眼に映った一九二九年のロンドンは、マクドナルドの労働・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・なかに、各自の発展の道を求めなければならなかったのであったが、これらの人々がこんにち自身をおいている状態からみても一目瞭然であるとおり、誰もが自身の既成文壇においての地位を肯定し、個人的な才能に未来の打開をたのんだ。無産階級の芸術運動と旧文・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・葉子自身がただの一度も自主的に何とか経済的な面を打開しようと思っても見なかったこと。それは、日清戦争前後のロマンティックな文学的雰囲気に触れ、非常に才気煥発で敏感な葉子にあっても、やはり環境的にもたらされてそこから脱ける意力ははぐくまれてい・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・買出しに打開策をまかせてみたり、又おどろいてやめさせたりばかりしているのでしょう。 真に公の声である全日本の人々の、生きて働けるだけ食べられるように、という声に心を合わせて、人民が自分たちで責任をもって食糧の管理をやって見ようという、公・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・のであるというよりは、近代の国際資本の競争におくれて立ちまじった日本の資本主義支配者たちが、世界の間に自立的な伝統と立場とを確立していず、いつも、うすら寒いすばしこさや拙速や漁夫の利で、その場その場を打開し糊塗してきた、その影響である。明治・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・あの人もこうやってゆきづまりながらトコトンで何か打開して生きて行くことを学びつつあります。体の調子にひき廻されながらも。どんなに安心したか、御想像下さい。何しろ、何を言われても総毛立つというのだから、私としては自分の食べるチーズでも分けて送・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・私は太郎の遊んでいる姿を眺め、この可愛い小僧の精神の中に、どれ丈この生温い、受身な、姑息な生活気分を打開する力がこもっているかと思います。そしてどうかこの小僧が成長する時代が活溌であって、おのずからいきいきとした雰囲気に呼吸して育つようであ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫