・・・当時にあっては、佐藤春夫は芸術の技法の面から日本文脈の研究について一つの見解を示していたが、それは今日の佐藤春夫が「もののあわれ」を云々する内容、傾向とはその社会的性質に於て遙かに淡白な作家気質によったのであった。横光利一氏が本年一月『改造・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・中で自我を未だ自我の自覚として十分社会的に持ち得なかった日本の知識人が「自然主義を技法の上でだけ」摂取し、対象を我におかず「実生活」においてそこに膠着せざるを得なかった事情と対比した。 尾崎、小林両氏の私小説論は、「純文学であって通俗小・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・めいた技法追究は激しく推移する日本の現実の情勢から、作品の社会性を、すごい有様で引はがしてしまった結果を生じているのである。 ヒューマニズムの問題 本月もヒューマニズムの問題はほとんどすべての雑誌にとりあげられ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ ラグーザ玉子の画境は、純イタリー風で、やや古典的な確かな技法とともに、こまやかな味、平和な趣の作品が多く、それはこの老婦人画家の心の景物を示すとともに、孝子夫人の求めていられた和らぎにこたえたのであろう。 二度目に上って、すこし時・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ ひとの話では、染色の技法は今日或る転機に面しているそうだ。これまでは、刺繍だの金銀泥が好きなだけつかえて、染料の不足もなかったから、玄人とすればいろいろ技法を補い誇張する手段があった。ところが、統制になって、そういう補助の手段が減って・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・美について、その発見と表現とその技法について語っている。別の言葉で云えば、自己の偉大さの秘密を、すっかり打ち開いている。その真率さにおいて益々彼は偉大であり、到達しがたい価値を感じさせるのである。 ゴッホの手紙は、どうだろう。セザンヌが・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・ 職場からの出品は、この展覧会でも、他の場所に陳列された絵からうけた印象も、生活力には溢れているけれども、素人にわかる範囲での技法、ことに色彩の解釈や置きかたなどが、まだまだもとからあるものに支配され、追随していると感じます。そして・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・で、ベルクナアが示したような表面の技法で、内実は父権制のもとにある家庭の娘、戸主万能制のもとにある妻、母の、つながれた女の昔ながらの傷心が物を云っているところにある。女の過ちの実に多くが、感情の飢餓から生じている。その点にふれて見れば、女の・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・当時の芸術思潮の影響もあって自然であることの美しさを、古典的、人工的な美よりも高く評価するようになったマリアは、絵画の技法の上では驚くべきリアリストになりはじめた。ところが、画題の選択の面では彼女の少女時代からつきまとっている貴族主義、壮美・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・浅く見れば、映画の技法の影響とも云えそうだけれども、もう一歩近づいてみれば、それは都会的なテムポの感覚から来たモンタージュの力量に止る性質のものでないことは明かである。 イリーンが、科学の知識を、ああもわかりやすく、ああもよろこばしく語・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
出典:青空文庫