・・・そうしてことに私のように、詩を作るということとそれに関聯した憐れなプライドのほかには、何の技能ももっていない者においていっそう強く享けねばならぬものであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 詩を書いていた時分に対する回想・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・彼女たちの好みにまかせておれば、スマートな、物わかりのいい、社会的技能のあるような青年がふえても、深みと、敦みのある理想主義の青年などは減っていきそうに見える。貧困とたたかって民族的・社会的革新のためにたたかうような青年などはお目にとまりそ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・暗殺の目的は金や持物ではなくて、その旅人の有っている技能や智慧や勇気が魂魄と一緒に永久にその家に止まって、そのおかげでその家が栄えるようにという希望からだという事である。 これはずいぶん思い切って虫の好過ぎる話である。 しかしよく考・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・その利器の使い方の巧拙はその画家の技能を評価する目標の一つになるが、それよりも重大な標準は、それによって表わすべきものの、真の種類や程度にある事は勿論である。科学者がその方則を述べる字句の巧拙や運算の器用不器用は必ずしもその方則の価値と比例・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ヨーロッパの天地は再び震撼しはじめているが、この前のように盲目の狂暴に陥るまいとする努力は到るところに見られており、男に代って社会活動の各部署についた婦人たちも、二十五年昔よりは高められている技能とともに単純なヒロイズムにのぼせていないもの・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・ ○ 翻刻智環啓蒙の面白さは、そのように機械化した文字が、まだ貴重な一つの解読と云う技能を要した時代を反映していて、微笑されるのである。明治三年頃印刷されたもので香港の宣教師でも作ったのであろう。“A cir・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・キュリー夫人の科学上の学識、技能を更に広いところから包んで、そのものの完成をも可能ならしめたもの、それはもとより当時の社会の条件と、彼女自身の堅忍であり、不撓な意志でもあるが、もう一歩つきつめてその堅忍や強靭な意志が何処から生れて来ていたか・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・そして、愛するYが、時間と金とを魔術のように遣り繰る技能に、一段の研磨の功を顕しますように。〔一九二六年八月〕 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 現今、学識の深い女性は多くあり、特殊の技能を持った婦人は非常に増加しています。その中の或る者は、明に独立的人格者として、生涯を自己の意志で支配して、或は、するべき必要を感じているのです。然し、平時の生活はどうでもなりはしても、不時の災・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・就職のくちが割合どっさりあるということは今日の社会の条件からおこった需要で、各方面へ婦人の進出をもたらしているのだけれども、それらの職業についてゆく娘さんたちの内面的な動機にふれてみれば、婦人の技能の拡大のためという建て前からより、職業でも・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
出典:青空文庫