・・・○批評家が作家に折紙をつけるばかりではない。作家も批評家へ折紙をつける。しかも作家のつける折紙のほうが、論理的な部分は、客観的にも、正否がきめられうるから。○夏目先生の逝去ほど惜しいものはない。先生は過去において、十二分に仕事をされ・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・ 突然川柳で折紙つきの、という鼻をひこつかせて、「旦那、まあ、あら、まあ、あら良い香い、何て香水を召したんでございます。フン、」 といい方が仰山なのに、こっちもつい釣込まれて、「どこにも香水なんぞありはしないよ。」「じゃ・・・ 泉鏡花 「縁結び」
・・・こういう大官や名家の折紙が附いたので益々人気を湧かして、浅草の西洋覗眼鏡を見ないものは文明開化人でないようにいわれ、我も我もと毎日見物の山をなして椿岳は一挙に三千円から儲けたそうだ。 今なら三千円ぐらいは素丁稚でも造作もなく儲けられるが・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 英ちゃんの、いちばん上のお姉さんが小さいときに、そのはさみで折り紙を切ったり、また、お人形の着物を造るために、赤い布や紫の布などを切るときに使いなされたのですから、考えてみるとずいぶん古くからあったものです。 その時分にはこんな黒・・・ 小川未明 「古いはさみ」
・・・袖子の方でもよくその光子さんを見に行って、暇さえあれば一緒に折り紙を畳んだり、お手玉をついたりして遊んだものだ。そういう時の二人の相手は、いつでもあの人形だった。そんなに抱愛の的であったものが、次第に袖子から忘れられたようになっていった。そ・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・なんらかの意味で、いずれも、世の中から背徳者の折紙をつけられていた。ほんの通りがかりの者ですけれども、お内があんまり面白そうなので、つい立ち寄らせていただきました、それでは、お邪魔させていただきます、などと言い、一面識もないあかの他人が、の・・・ 太宰治 「花燭」
・・・という折紙をつけられている人ではないか。も少し、どうにかならんかなあ、と不満であった。私は、年少の友に対して、年齢の事などちっとも斟酌せずに交際して来た。年少の故に、その友人をいたわるとか、可愛がるとかいう事は私には出来なかった。可愛がる余・・・ 太宰治 「散華」
・・・若き頃より歯が悪く、方々より旅の入歯師来れどもなかなかよき師にめぐり合う事なく、遂に自分で小刀細工して入歯を作った。折紙細工に長じ、炬燵の中にて、弟子たちの習う琴の音を聴き正しつつ、鼠、雉、蟹、法師、海老など、むずかしき形をこっそり紙折って・・・ 太宰治 「盲人独笑」
出典:青空文庫