・・・たちは、この一二年の間に夥しい数でひろく荒い生産の場面に身と心とをさらしはじめているのだが、日本の明日の文学はこれらの稚く若々しい肉体と精神の成長のためのたたかいとその悲喜とを、どのように愛惜し誠意を披瀝しておのれの文学のうちに描き出してゆ・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・そして、その相剋を積極的な主張的なものとして出す力も社会的習慣をも持たない女が内攻的になり、嘘をつくようになり、本心を披瀝しないものとなって、ただ男を社会経済生活に必要なものとだけ見てゆくようになる、その卑俗性がまた男に反射して摩擦を激しく・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・日本の婦人が封建的な習慣をもっていて、自分の感情を披瀝することを憚ったり、道理を公然と主張することを遠慮したりする習慣も、戦時中女性の愛情からの声を抑える結果になって、それは戦争を遂行するためには実に有効に利用されたのであった。私達は日本の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 様々に描き、予想し、もう自己の内部を絶頂まで披瀝して当ったのですから、彼方此方で意外な齟齬に出会っても、自己を回収することすら容易でない。自分で自分の手にあまる廻りからは、どんどん新たな、決して、私の有るべきという範疇では認めていなか・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・ ヘルマン・バアルは露都で得た芸術の酔いごこちをフランクフルト新聞に披瀝して、神のごときデュウゼをドイツに迎えようと叫んだ。これが導火線となって翌九二年デュウゼは初めてウィーンへはいった。彼女が空虚なるカアル劇場に歩み入った時には一・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫