・・・谷崎氏が日本文学に構成力が薄弱であることを不満とし、自身の抱負を文章によって述べていた頃の脂のきつい押し、あるいは、初期の作品が内包していた旺盛な生活力と「春琴抄」が示しているいわゆる完成の本質とをくらべて見て、私は大谷崎という名で呼ばれる・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・と、芸術の光背を負うて陸離たるが如くあった室生犀星氏が、近頃の抱負として「家ではよき父であり夫であり、規律を守り一家一糸をも乱さず暮したい」「対人的には朋友を信じ博愛衆に及ぼし」近衛文麿、永井柳太郎等が文学を判ろうとしている誠意に感奮して、・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・「や、えらい抱負じゃぞ」と、友達は笑って去ったが、腹の中ではやや気味悪くも思った。これは十九のとき漢学に全力を傾注するまで、国文をも少しばかり研究した名残で、わざと流儀違いの和歌の真似をして、同窓の揶揄に酬いたのである。 仲平はまだ江戸・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫