・・・論、人間と文学との基本的権利の抹殺行動につながる林房雄の論法に、だまって肯くという態度を示さなければならないのだろう。林房雄は、『群像』十二月の座談会で宇野浩二の「文学者御前会議」にふれている。「一般に日本の私小説作家というものは、文学・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・この三年間に、反小林多喜二の慣用語として、主体性を云い、人民的民主主義の方向を抹殺して、個人を云い自我を云いたてた人々は、現在、その人々の目にもあきらかなように、反動的農民組合の分派が、自分たちを主体派とよび、労働組合の分裂工作が民主化同盟・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・文学そのものが本来の性質としてもっている芸術の力によって読者の生活の感情を高める役割さえ、ここでは抹殺されているのである。 プロレタリア文学が、運動としての形をもっていた時分は、当時の一般的な事情からの関係もあって大衆というものの内容を・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・ある一部の紹介者は社会主義的リアリズムをもって、芸術に於ける世界観の抹殺と小市民性、インテリゲンツィア性のあるがままの形での認容であると誤って理解した。これは全く正反対のものである。この誤解は、その半面に、さっきもそれについて触れた些末的写・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ この現象と一方に囂々たる響を立てている文芸復興の声とは互に混りあい、絡まりあって、社会性を抹殺した文学熱、箇人化された才能の競争で一般的人間を描かんとする熱を高めたのであった。 ここで注目をひくことは、プロレタリア文学運動の退潮を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・当時軍国主義日本の文化統制はますますきびしくなってきていて、人間の理性や自然な感覚から生れる文学は、抹殺されつつあった。日本の現代文学は、急速に破壊されて行った。わたしはその兇暴な波にもまれながら、自分が今日そのような力に抵抗する一人の作家・・・ 宮本百合子 「作者のことば(『現代日本文学選集』第八巻)」
・・・東條内閣の言論、思想の圧迫は、言論の自由がなく、思想は抑圧されているという現実そのものを抹殺したほど、極端であった。そのような情勢のなかで、生きようとせずにいられない青春が、辛うじて周囲に見出してとりすがったのは、フランス文学であった。フラ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・の問題は、プロレタリアートの階級性の抹殺の上に立てられているものではなく、ソヴェト同盟の指導者たちが、一九二一年の新経済政策以来プロレタリア文学運動を国際的規模において発展せしめて来た一貫した指導方針=文学の面におけるプロレタリアートの主導・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・殊に、零点の置きどころを改革するというような、いわば、既成の仮設や単一性を抹殺していく無謀さには、今さら誰も応じるわけにはいくまいと思われる。しかし、すでに、それだけでも栖方の発想には天才の資格があった。二十一歳の青年で、零の置きどころに意・・・ 横光利一 「微笑」
・・・人によれば自分の感じたことをわざと抹殺しようとする習慣をさえ持っている。あるいはほとんど無意識に自分の感じた事の真相から眼をそむける人もある。これらの事実は表現の虚偽をひき起こさないではやまない。 表現を迫る内生はそれにピッタリと合う表・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫