・・・ 昼過ぎになると、担当の看守が「明日の願い事」と云って、廻わってくる。キャラメル一つ。林檎 十銭。差入本の「下附願」。書信 封緘葉書二枚。着物の宅下げ願。 運動は一日一度――二十分。入浴は一週二度、理髪は一週・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・外国文書の飜訳、それが彼の担当する日々の勤務であった。足を洗おう、早く――この思想は近頃になって殊に烈しく彼の胸中を往来する。その為に深夜までも思い耽る、朝も遅くなる、つい怠り勝に成るような仕末。彼は長い長い腰弁生活に飽き疲れて了った。全く・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・第一その筒の傍に立って、花火の打上げを担当している二人の技手からが、洋服に、スエター、半ズボンというハイカラな服装である。そうしてその二人のうちで船首の方に立っている一人は、立派な鬚をさえ生やしているのである。これが筒の掃除をする役をつとめ・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・もしこの両者が共同し、その上に機械的の計算や統計を担当する助手の数人の力をかりることができれば、仕事はかなりおもしろく進行しそうに思われる。しかしこのほうがむしろおそらく夢のような空想であるかもしれない。 以上の考察においては、最・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・の枠にはまっていた本質上、当時の身分制度である士農工商のけじめを脱したものではなかった。「士分の子弟」の智能開発が藩学校での目的であった。この性格は、士分のものが来るべき「開化」の担当者であるべきだという見通しに立ったものであった。そして、・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・に満足しないで、労働階級は生産機関を握り、社会の運転を担当している階級なのだから、ブルジョア文学者のうかがい知ることの出来ない生産と労働と搾取との世界を解剖し、描写すべきであると主張された。 プロレタリア文学運動が、端緒的であった自身の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・英文学の仕事をしていた某氏が事務担当をしていた。私の用事は、前に中野さんと某氏を訪ねたとおなじ題目であった。文芸家協会は、大正年代に組織され、古い歴史をもつ日本で唯一の文学者の集団である。理事というところには、日本の代表的著述家・作家が顔を・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・日本文学史全巻を担当される近藤忠義が、篤学、正確な視点をもたれる学者であることは、読者にとっての幸運であるし、同時に今日の文学の諸相のみを扱う私にとって一つの幸な安心である。〔一九三七年十月〕・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
・・・生計の担当者である彼女たちの一票は少くともそれに反対する人民の意思表示となるべきであると思う。 安達ヶ原 群馬の或るところに恐ろしい人肉事件が起った。また再び詳しく話し返すに堪えない残忍な話である。今日、食糧事・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・朝の第一時間がはじまったとき、担当の年をとった女先生から、その顔をすぐ洗って来るようにと命ぜられた。その一人が教室に戻って来るまで授業ははじめられず、みんな着席したまま固唾をのんで待っていた。やがて涙も一緒に水道の水でごしごしこすった顔を因・・・ 宮本百合子 「歳月」
出典:青空文庫