・・・野呂栄太郎は、その治安維持法によって殺され、その直接の売りわたし手の査問を担当した事件の裁判に当って、自身もまた同じ悪虐な法律のしめなわにかけられ民衆に対する責任と義務と信頼とを裏切る仕儀に陥った。追憶の文章を流暢に書きすすめるとき、逸見氏・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・ ブルジョア民主主義の達成が眼目ではあるけれども、その歴史的担当者であるブルジョアジーというものは、日本ではヨーロッパ諸国のブルジョアジーとまったく違った経歴をもってきています。明治維新に新しい権力者となった封建領主、下級武士たちが半封・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 当時クラブ出発に関係していたいろいろの婦人たちの賛成を得て櫛田ふきさんが、実務の担当者となったことは、彼女の亡き良人が経済学者の櫛田民蔵氏だからではなかった。ふき子という彼女その人の婦人としての生活経験と、人間としての可能性によってみ・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・軍国主義時代の日本の文壇的な存在として成功するためにはよつんばいにでもなるといったと語りつたえられた張赫宙のような朝鮮の作家のだれ一人も、きょう民主朝鮮の民族文学の担当者とはなっていない。 わたしたちの間へ、ソヴェト同盟から手づくりのヴ・・・ 宮本百合子 「手づくりながら」
・・・労働者だからといって、そのまますぐに彼を一人のプロレタリアートすなわち民主主義革命の担当者であるといえないことは、私よりもおそらく職場の人達自身が知っているでしょう。労働者自身がもっともよく遅れた労働者がどんなに階級の負担であるかということ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・近代の歴史の担当者として現れたブルジョアジーは、王権を否定して市民の権利を確立すると共に、ルーテルを先頭に立てて、法王に統率され経済的政治的に専制勢力の柱である天主教の仕組を否定した。そして、市民一人一人の精神の内に在る神としてのキリスト教・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・彼女はウクライナ共和国の国立出版所で、ロシア部の担当だった。国立出版所の机の前で働くかと思うと、「土曜労働」でジャガ薯掘りをやりながら、フォルシュは四度キエフ市の政権が代るのを見た。反革命の白軍が南方ロシアの旧い美しい都市であるキエフを占領・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・あんまり譲原さんが汗をかくので、わたしもその時の担当者であった江上さんも心配になって、いきなりではあんまり無理らしいからと、四、五日さきに録音をのばした。わたしたちは皆単に、譲原さんはひどく疲れている上に馴れない、放送局のなかは不自然に暖か・・・ 宮本百合子 「譲原昌子さんについて」
・・・今日の日本の民主化は、明治にやりのこされたブルジョア民主主義化の完成という過程なのであるけれど、その初めの担当者は先にくりかえしふれたように、もう自身で民主化してゆく発展の能力を失ってしまっている。従って、新しい勤労人民階級がその原動力とな・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫