・・・ するとその人は向うで手のあいているもう二人の人たちを指で招きながら云いました。「どうだろう。お客さまはこの通りの型でいいと仰っしゃるが、君たちの意見はどうだい。」 二人は私のうしろに来て、しばらくじっと鏡にうつる私の顔を見てい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 十日 グランパを御飯に招き、マルセーユの額のかかった下のソーファーで、盛に議論した。ダディーは長野宇平治氏と話し、オーケストラは鳴る。 十一日 本田をたずねようとしてミルス・ホテルに行く番地をききに来る。ダディーはかえら・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・ 鍵の先で招き出すような風にした。私が立ち上ってそのままあっち向きにぬいであるアンペラ草履をはこうとしたら、「その紙なんかも持って……引越しだ」と云った。「引越し? どこへ?」 よそへ廻されるのか。瞬間そう思った。が、看・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・注意をひかれざるを得ないのは、一部の科学者をジャーナリズムに招き出したこの時期は、読書人の間に随筆が迎えられた時、内田百間氏が「百鬼園随筆」によって第一段の債鬼追っ払いをした時代であり、日本文学の動向に於てかえり見ると、これは明瞭な指導性を・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 自分を常に不幸な子供という役のまわりあわせにおいてばかり見るジャン自身の気持からも、どうして不幸が招きよせられないと云い得よう。手記の中でジャンは、人々がもう一度自分を信用してくれたら、この人生をやり直したいと云っている。そのためには・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・けれども、互にその家庭に招き合ったり、一緒に一団となって饗宴に出たり郊外に遊んだりするようなのは決して誰とでも、と云うことではなく、異性の交際が自由であり普通である丈、相互に強い好き嫌い、選択が行われる訳なのです。 その選択は、これなら・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・一九三五年四月十八日、父の第六十八回目の誕生日に、私が父を気に入りの浜作に招き、その席で「葭の影」という題名を父が思いついた。「葭の影」のこの日の条には、こう記されている。「七月廿七日、晴。涼し。前略。交際馴れた近藤氏はロシア語も自由である・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・たテムポは明治このかた非常に急であるが、そのことは、一方に前時代の様々な習俗が自然に常識の中で変化されてゆくだけの時間がなかったことをも意味していて、社会の激しい動きはどんどん若い女性を社会的な職場へ招きよせているにもかかわらず、女について・・・ 宮本百合子 「働く婦人の歌声」
・・・ 家康が武田の旧臣を身方に招き寄せている最中に、小田原の北条新九郎氏直が甲斐の一揆をかたらって攻めて来た。家康は古府まで出張って、八千足らずの勢をもって北条の五万の兵と対陣した。この時佐橋甚五郎は若武者仲間の水野藤十郎勝成といっしょに若・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・「小石川区小日向台町何丁目何番地に新築落成して横浜市より引き移りし株式業深淵某氏宅にては、二月十七日の晩に新宅祝として、友人を招き、宴会を催し、深更に及びし為め、一二名宿泊することとなりたるに、其一名にて主人の親友なる、芝区南佐久間町何・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫