・・・ すると老人は座敷の隅から、早速二人のまん中へ、紫檀の小机を持ち出した。そうしてその机の上へ、恭しそうに青磁の香炉や金襴の袋を並べ立てた。「その御親戚は御幾つですな?」 お蓮は男の年を答えた。「ははあ、まだ御若いな、御若い内・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・と云う折衷説を持出した。これには二人とも、勿論、異議のあるべき筈がない。そこで評議は、とうとう、また、住吉屋七兵衛に命じて銀の煙管を造らせる事に、一決した。 六 斉広は、爾来登城する毎に、銀の煙管を持って行った・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・そしてフランシスに対して好意を持ち出した。フランシスを弁護する人がありでもすると、嫉妬を感じないではいられないほど好意を持ち出した。その時からクララは凡ての縁談を顧みなくなった。フォルテブラッチョ家との婚約を父が承諾した時でも、クララは一応・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ドモ又、おまえが描いたという画はなんでもかんでも持ち出してサインをしろ。そうして青島、おまえひとつこの石膏面に絵の具を塗ってドモ又の死に顔らしくしてくれ。それから沢本と瀬古とは部屋を片づけて……ただし画室らしく片づけろよ。芸術家の尊厳を失う・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・……ぴたぴたと行るうちに、草臥れるから、稽古の時になまけるのに、催促をされない稽古棒を持出して、息杖につくのだそうで。……これで戻駕籠でも思出すか、善玉の櫂でも使えば殊勝だけれども、疼痛疼痛、「お京何をする。」……はずんで、脊骨……へ飛上る・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ともう真中へ座蒲団を持出して、床の間の方へ直しながら、一ツくるりと立身で廻る。「構っちゃ可厭だよ。」と衝と茶の間を抜ける時、襖二間の上を渡って、二階の階子段が緩く架る、拭込んだ大戸棚の前で、入ちがいになって、女房は店の方へ、ばたばたと後・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・梅子が餌を持ち出してきて鶏にやるので再び四人の子どもは追い込みの前に立った。お児が、「おんちゃんおやとり、おんちゃんおやとり」 というから、お児ちゃん、おやとりがどうしたかと聞くと、お児ちゃんはおやとりっち言葉をこのごろ覚えたからそ・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・隣の間から箒を持出しばさばさと座敷の真中だけを掃いて座蒲団を出してくれた。そうして其のまま去って終った。 予は新潟からここへくる二日前に、此の柏崎在なる渋川の所へ手紙を出して置いた。云ってやった通りに渋川が来るならば、明日の十時頃にはこ・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・此質問一ヵ条を持出して、『目録は出来ていません』と答えると直ぐ『さよなら』と帰って了った。 見舞人は続々来た。受附の店員は代る/″\に頭を下げていた。丁度印刷が出来て来た答礼の葉書の上書きを五人の店員が精々と書いていた。其間に広告屋が来・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・専売局自身が倉庫から大量持ち出して、横流しをしてるんですからねえ」 東京の人人はこの記事を読んで驚くだろうが、しかし私は驚かない。私ばかりではない。大阪の人はだれも驚かないだろう。 そしてまた次のことにも驚かない。 最近・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
出典:青空文庫