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・・・ 喬は彼の心の風景をそこに指呼することができる、と思った。 二 どうして喬がそんなに夜更けて窓に起きているか、それは彼がそんな時刻まで寝られないからでもあった。寝るには余り暗い考えが彼を苦しめるからでもあった。彼・・・
梶井基次郎
「ある心の風景」
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・・・手は、姿見えぬ人、うなだれつつ、わが背後にしずかにつきしたがえるもの、水の精、嫋々の影、唇赤き少年か、鼠いろの明石着たる四十のマダムか、レモン石鹸にて全身の油を洗い流して清浄の、やわらかき乙女か、誰と指呼できぬながらも、やさしきもの、同行二・・・
太宰治
「二十世紀旗手」