・・・ 女の子は笑って何かかすかに呪いのような歌をやりながらみんなを指図しています。 ペンネンネンネンネン・ネネムはその女の子の顔をじっと見ました。たしかにたしかにそれこそは妹のペンネンネンネンネン・マミミだったのです。ネネムはとうとう堪・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・向側の鏡が、九枚も上手に継いであって、店が丁度二倍の広さに見えるようになって居り、糸杉やこめ栂の植木鉢がぞろっとならび、親方らしい隅のところで指図をしている人のほかに職人がみなで六人もいたのです。すぐ上の壁に大きながくがかかって、そこにその・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・「生憎ただ今爺が御邸へまいっていてはっきり分りませんが――賄は一々指図していただくことにしませんと……」 忠一が、「それはそうだろう」といった。「賄は別の方がいいさ、留守の時だってあるんだから」「さよです」「座敷・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・長靴はいて緑色制帽をかぶった列車技師が、しきりに一台の車の下をのぞいて指図している。棒材がなげ出してある。真黒い鉄の何かを運んで来て雪の中にころがしてある。山羊皮外套を雪の上へぬぎすて農民みたいな男が、車の下に這いこんだ。防寒靴の足の先だけ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 一九三八年一月から、翌年のなかばごろまで、日本では数人の作家・評論家たちが、内務省の秘密な指図で、作品発表の機会を奪われた。そのころ内務省の中で、ジャーナリストたちを集めて、役所の注文をなす会合がもたれていた。そこで、何人かの文筆家が・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ 窓から覗き込んで指図する。婆さんは、けれども矢張り洋傘を掴んだまま、汚れた手拭で顔を拭いた。「降りゃしないかね、これで彼方へつくのはどうしたって日暮れだ」「大丈夫だよ、俥でおいでね、くたぶれちゃうよ。一里半もあるんだってからさ・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・母は台所の方へ行って何か指図をしていたが、そのときのは、となりの家の門の植込のところで捕えられた。桑田さんの書生さんが、あやうく斬られかかったというような話を、こわさで息を弾ませつつ傍できいていた。 次のときは、もうそれから何年も経って・・・ 宮本百合子 「からたち」
・・・四月二十八日にはそれまで館の居間の床板を引き放って、土中に置いてあった棺を舁き上げて、江戸からの指図によって、飽田郡春日村岫雲院で遺骸を荼だびにして、高麗門の外の山に葬った。この霊屋の下に、翌年の冬になって、護国山妙解寺が建立せられて、江戸・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 山本の内では九郎右衛門が指図をして、荷物は残らず出させたが、申の下刻には中邸一面が火になって、山本も焼けた。 りよは火事が始まるとすぐ、旧主人の細川家の邸をさして駆けて行ったが、もう豊島町は火になっていた。「あぶないあぶない」「姉・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ 本多の指図で、使の一行はその日のうちに立って、藤枝まで上った。京都紫野に着いたのが五月二十九日、大阪へ出たのが六月八日で、大阪で舟に乗り込んだのが六月十一日である。朝鮮征伐の時の俘虜の男女千三百四十余人も、江戸からの沙汰で、いっしょに・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫