・・・煩雑な典故を尚んだ、殿中では、天下の侯伯も、お坊主の指導に従わなければならない。斉広には一方にそう云う弱みがあった。それからまた一方には体面上卑吝の名を取りたくないと云う心もちがある。しかも、彼にとって金無垢の煙管そのものは、決して得難い品・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・学者も思想家も、労働者の先達であり、指導者であるとの誇らしげな無内容な態度から、多少の覚醒はしだしてきて、代弁者にすぎないとの自覚にまでは達しても、なお労働問題の根柢的解決は自分らの手で成就さるべきものだとの覚悟を持っていないではない。労働・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・同時に、その文化の出現を信ずる者にして、躬ずからがその文化と異なった生活をしていることを発見した者は、たといどれほど自分が拠ってもって生活した生活の利点に沐浴しているとしても、新しい文化の建立に対する指導者、教育者をもってみずから任ずべきで・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・そして僕の感ずるところが間違っていなければ、プロレタリアの人々は、在来ブルジョアの或るものを自分らの指導者として仰いでいる習慣を打破しようとしている。これは最近に生活の表面に現われ出た事実のうち最も注意すべきことだ。ところが芸術にたずさわっ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ この頭目、赤色の指導者が、無遠慮に自動車へ入ろうとして、ぎろりと我が銑吉を視て、胸さきで、ぎしと骨張った指を組んで合掌した……変だ。が、これが礼らしい。加うるに慇懃なる会釈だろう。けれども、この恭屈頂礼をされた方は――また勿論されるわ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・これが時勢であろうけれども、この時代の汐先きを早くも看取して、西へ東へと文壇を指導して徐ろに彼岸に達せしめる坪内君の力量、この力量に伴う努力、この努力が産み出す功労の大なるは誰が何といっても認めなければならぬ。 近来はアイコノクラストが・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・即ち、母親の言葉は、即ち将来への指導となり、その愛情に満ちた温顔は、美の標準となり、また、母のしたことはすべて正しいと信じ、それが子供の心となり、血となるからです。 されば、聡明な母親は、子供のために、自からの向上を怠ってはならぬ。言う・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・ これ、自からの信仰に生きずして、権力に、指導されるからではあるまいか。 小川未明 「自由なる空想」
・・・従って、これらの文学よりの教化は、概念的の指導でなく、また強圧的な教訓でもなく、全く、体験に訴え、自得し、自治せしむるところにあるのであります。 以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊なる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・私は日本文壇のために一人悲憤したり、一人憂うという顔をしたり、文壇を指導したり、文壇に発言力を持つことを誇ったり、毒舌をきかせて痛快がったり、他人の棚下しでめしを食ったり、することは好まぬし、関西に一人ぽっちで住んで文壇とはなれている方が心・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
出典:青空文庫