・・・心気粗暴、眼光恐ろしく、動もすれば人に向て怒を発し、言語粗野にして能く罵り、人の上に立たんとして人を恨み又嫉み、自から誇りて他を譏り、人に笑われながら自から悟らずして得々たるが如き、実に見下げ果てたる挙動にして、男女に拘わらず斯る不徳は許す・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・一、官の学校にある者は、親しく政府の挙動を聞見して、みだりにその是非を論ずるの弊あり。はなはだしきは権家に出入して官の事業を探索する等、無用の時を費して本業を忘るるにいたる。その失、二なり。一、官の学校にては、おのずから衣冠の階級あ・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・私の申しわけ、わたくしの取留めの無い挙動の申しわけはこの一字に在るのでございます。 ピエエルさん。わたくしはただいま白状いたします。わたくしはもう十六年前にあなたに恋をいたしていました。あなたが高等学校をお出になったばっかりの世慣れない・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・郵便受箱へ入れておいて下さいというつもりで高窓をあけたら、タオル寝間着の若い男のひとが立っていて、妙にひそめた声と左右に目を配った挙動とで、「一寸ここまで来て下さい」と云う。「どなたなんでしょう。」「一寸ここまで来て下さればわかりますから。・・・ 宮本百合子 「このごろの人気」
・・・ 人格を見抜く力もなく、頭もなく、ちやほやされるままに気位なくあちこちと浮れ廻る娘は、只一人の真友も持ち得ないと同時に、女性に対して無責任、或は破廉恥な挙動をした者は、忽ち、友達仲間から除外されます。 相当な面目を保った異性間には、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・この男の表情、言語、挙動は人にこういう詞を催促していると云っても好い。役所でも先代の課長は不真面目な男だと云って、ひどく嫌った。文壇では批評家が真剣でないと云って、けなしている。一度妻を持って、不幸にして別れたが、平生何かの機会で衝突する度・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・そして舟に乗ってからも、単に役目の表で見張っているばかりでなく、絶えず喜助の挙動に、細かい注意をしていた。 その日は暮れ方から風がやんで、空一面をおおった薄い雲が、月の輪郭をかすませ、ようよう近寄って来る夏の温かさが、両岸の土からも、川・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・三郎が武術に骨を折るありさまを朝夕見ているのみか、乱世の常とて大抵の者が武芸を収める常習になっているので忍藻も自然太刀や薙刀のことに手を出して来ると、従って挙動も幾分か雄々しくなった。手首の太いのや眼光のするどいのは全くそのためだろう。けれ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・二十一歳で博士になり、少佐の資格で、齢上の沢山な下僚を呼び捨てに手足のごとく使い、日本人として最高の栄誉を受けようとしている青年の挙動は、栖方を見遁して他に例のあったためしはない。それなら、これからゆく先の長い年月、栖方は今あるよりもただ下・・・ 横光利一 「微笑」
・・・若い時はそんな挙動もあえてしたかも知れませんが、今はほとんどありません。好きな人があってもこちらから求めて出るような事は全くありません。……しかし今の私だって冷淡な人間ではありません。……「私が高等学校にいた時分は世間全体が癪にさわって・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫