・・・そのために彼女らしい日常生活の横溢が経済的にも行詰って了うと、実際生活に於いて地味にそこから発展の道を見出すことが出来ず、同時に作家としてもその活動を挫折させた。自分が感じたこと、自分が生きたこと、そういう範囲では彼女はそれを強烈に作品の中・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・両親は却ってこの熱烈で大柄な若者の野心の余りひどい挫折を劬り、小説で成功するためには、金儲けをすると同じに、やはり時間のいることをおのずから会得したものか、健康恢復をさせるため、バルザックを当時隠退して住んでいたヴィルパリジェスの家へ引きと・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・そして、それから十年にわたる彼らの活動は、どんな歴史的特色をもっていたが故に、今日の困難な情勢の下に彼らが挫折しなければならないように、その内的矛盾を激化したのか。 そのいきさつが知りたいのである。ヨーロッパにくらべると二十年余もおくれ・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・フロレンスはこの第一歩の挫折を、決して自分の生涯の計画の挫折としてはうけとらなかった。それから後の八年という歳月は、フロレンスの上流令嬢としての生活の底におそるべき不屈な努力と実力の蓄積とをはらんで進行した。この表面の挫折に遭うまでのフロレ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・あのようにして挫折する夥しい若い生命の声は、どんな作品のなかに反響しているだろう。 心理分析の手法で、少女から若い娘にうつる微妙な時期の嫉妬やあてどのない愛のもだえを扱った映画は、フランスやドイツに現れていて、日本でもその模倣めいた試み・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・物狂の女主人公達は、総て何かの意味で挫折した愛情の故に狂う哀れな女人であるし、幽霊となって現われる女達は、みんなこの世では果されなかった衷心の希望に惹かれて、再びこの世にそれを訴えようとして現われた人達である。 面白いのは、この時代の貴・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・小説においては、済勝の足ならしに短篇数十を作り試みたが、長篇の山口にたどりついて挫折した。戯曲においては、同じ足ならしの一幕物若干が成ったのみで、三幕以上の作はいたずらに見放くる山たるにとどまった。哲学においては医者であったために自然科学の・・・ 森鴎外 「なかじきり」
出典:青空文庫