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・・・ 灸は頭を振り始めた。顔を顰めて舌を出した。それから眼をむいて頭を振った。 女の子の笑い声は高くなった。灸はそのままころりと横になると女の子の足元の方へ転がった。 女の子は笑いながら手紙を書いている母親の肩を引っ張って、「ア・・・
横光利一
「赤い着物」
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・・・カインツは馳け回って大声に歓呼しながら帽子を振り、ロッテはもう役者を廃めるといって苦しげに泣いた。劇場を出た時には三人とも歓びのあまり、酔いつぶれた人のように、気の狂った人のように、恥も外聞もなく、よろめいて歩いた。バアルはその夜徹夜して書・・・
和辻哲郎
「エレオノラ・デュウゼ」