・・・そこまでは比較的自然に運ばれて来た観客の感情がそのような場面に近づくにつれ次第に不自然な道どりに引き入れられて、いわゆるクライマックスでは一目瞭然たる張子の森林などの中に恋人たちとともに案内されるのは迷惑である。そういう点だの技術的な俗習、・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・ 彼は、他のものまで凍えさせては大変だと云う風で、一も二もなく火の気のある室内に籠を引入れた。籠は彼の手造りである。無骨な、それでも優しい暢やかな円天井を持った籠の中で、小鳥等は崩れる薔薇の響をきき乍ら、暖かい夢を結ぶようになった。・・・ 宮本百合子 「餌」
一、六つばかりの正月丁度旅順が陥落し、若かった母が、縁側に走り出、泣きながら「万歳!」と叫んだ時、私も夢中で「バンザイ!」と叫んでオイオイ泣いた。わけが分ってではない、母の感激に引き入れられたのでしょう。もう一つは、十六歳の・・・ 宮本百合子 「記憶に残る正月の思い出」
・・・ そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作家と作品を成長させて来たばかりでなく、当時既に作家としてある程度の活動と業績を重ねた作家たちをも、各自の角度に従ってこの文学運動の中に引き入れた。先に触れた藤森成吉、秋田雨雀のほか片岡鉄・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・間に、田舎万歳の野卑な懸合話をしたり、頭を扇ではたき合ったりするが、愈々本気で水芸にかかると、たかみの見物をしているなほ子までおのずとその気合に引き入れられる程、巧に、真面目にやった。気のない見物を当てにせず、芸当を自分でやってその出来栄え・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・私は大急で走けつけて彼の手を引っぱって人道の方に引き入れた。私はもうがっかりしてしまった。こんなじいやをつれて来てどうしてよかろうと。 私は尚心配がまして来た。今のようでは一人はなしてあるかせればきっと死んででもしまうだろうと。 そ・・・ 宮本百合子 「心配」
・・・こわいものみたさでそれに気分を引き入れられるような、弱い女の無責任を演じてはならないのです。 特に若い日本の婦人たちは戦争ちょう発という言葉に対してそれは貴女も未亡人にしてみせますよといわれているということを感じるだろうと思います。私た・・・ 宮本百合子 「世界は平和を欲す」
・・・ 横浜から舟に載せた馬も着いていたので、別当に引き入れさせた。 勝手道具を買う。膳椀を買う。蚊帳を買う。買いに行くのは従卒の島村である。 家主はまめな爺さんで、来ていろいろ世話を焼いてくれる。膳椀を買うとき、爺さんが問うた。・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・彼らを新しい運動に引き入れたのは、確かに芸術的魅力であったに相違ない。そうしてこの感激が彼らの生活全体を更新しないではやまない力となったに相違ない。これは私の推測である。しかしこの推測なくしては私は古代の芸術をも文化をも解することができない・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫