・・・固まっていた物が融けて行くように、立ち据わる力がなくなって、下へ下へと重みが加わったのだろう。堕落、荒廃、倦怠、疲労――僕は、デカダンという分野に放浪するのを、むしろ僕の誇りとしようという気が起った。「先駆者」を手から落したら、レオナド・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ この店に這入って据わると、誰でも自分の前に、新聞を山のように積み上げられる。チルナウエルもその新聞の山の蔭に座を占めていて、隣の卓でする話を、一言も聞き漏さないように、気を附けている。中には内で十分腹案をして置いて、この席で「洒落」の・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・この卓や腰掛が似ているように、ここに来て据わる先生達が似ているなら、おれは襟に再会することは断じて無かろう。」 こう思って、あたりを見廻わして、時分を見計らって、手早く例の包みを極右党の卓の中にしまった。 そこでおれは安心した。しか・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・床の間の前へ行って据わると、それ、御託宣だと云うので、箕村は遥か下がって平伏するのだ。」「箕村というのは誰だい。」「箕村ですか。あの長浜へ出る処に小児科病院を開いている男です。前の細君が病気で亡くなって忌中でいると、ある日大きな鯛を・・・ 森鴎外 「独身」
・・・ 机の前に据わる。膳が出る。どんなにゆっくり食っても、十五分より長く掛かったことはない。 外を見れば雨が歇んでいる。石田は起って台所に出た。飯を食っている婆あさんが箸を置くのを見て「用ではない」と云いながら、土間に降りる縁に出た。土・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫