・・・そいつを、赤ん坊を引き裂いたように、最後の思い出として捻りつぶしたいだろう。そいつもむつかしくなるんだ。悶え始めるだろう。 お前は、肥っていて、元気で、兇暴で、断乎として殺戮をほしいままにしていた時の快さを思い出すだろう。それに今はどう・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・指南車を胡地に引き去るかすみかな閣に坐して遠き蛙を聞く夜かな祇や鑑や髭に落花を捻りけり鮓桶をこれへと樹下の床几かな三井寺や日は午に逼る若楓柚の花や善き酒蔵す塀の内耳目肺腸こゝに玉巻く芭蕉庵採蓴をうたふ彦根・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 口では、まるで一ひねりに捻り潰してくれそうな勢で彼女を罵ることだけは我劣らじと罵る。 けれども、若しその公憤を具体化そうとでも云えば、彼等は互に顔を見合わせながら、「はあ…… 相手がわれえ……」と尻込みをして、一人一人・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫