・・・女中が急いで寝間を掃除しているのである。はたきの音が殊に劇しいので、木村は度々小言を言ったが、一日位直っても、また元の通りになる。はたきに附けてある紙ではたかずに、柄の先きではたくのである。木村はこれを「本能的掃除」と名づけた。鳩の卵を抱い・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ お霜は安次の立った後の掃除をしながらそう勘次に云った。勘次は何ぜだか母親に突きかかっていきたくなったが黙っていた。「それでもお前のお蔭でみやいせ、蒲団三枚も損したわ。あの蒲団かて手織やが、まだそんねに着やせんのやぞ。お前ら碌なこと・・・ 横光利一 「南北」
・・・楓の樹が数十本もあると、その下に一、二寸に積もっているもみじの落葉を掃除するのはなかなかの骨折りであった。もみじの落葉を焚いて酒を暖めるというのが昔からの風流であるが、この落葉で風呂を沸かしたらどんなものであろうと思って、大きい背負い籠に何・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫