・・・ 貴夫人はもう誰にも光と温とを授けることは出来ないだろう。 それで魚に同情を寄せるのである。 なんであの魚はまだ生を有していながら、死なねばならないのだろう。 それなのにぴんと跳ね上がって、ばたりと落ちて死ぬるのである。単純・・・ 著:アルテンベルクペーター 訳:森鴎外 「釣」
・・・先ず一番の基礎的な事柄は教場でやらないで戸外で授ける方がいい。例えばある牧場の面積を測る事、他所のと比較する事などを示す。寺塔を指してその高さ、その影の長さ、太陽の高度に注意を促す。こうすれば、言葉と白墨の線とによって、大きさや角度や三角函・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・そうしてその結果は人形芸術家にも映画芸術家にも、いろいろの新しい可能性の暗示を授けるであろうと想像される。 たとえば、スクリーンの映像では、その空間的位置がちゃんと決定されているのに、音響のほうは、聞いただけでその音源の位置を決定する事・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・たとえ多少の欠点はあるとしても、およそ神様でない人間のした事で欠点のないものは有り得ないことはあまりにも明白なことであるから、それよりも仕事の長所と美点を明白に認識して、それに対して学位を授けるということにすれば事柄はよほど簡単になるであろ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・人間の子供でも時々いじめ苦しめ、かついだりだましたりするのがかえって現実の世の中に生きて行く道を授けることにならないとも限らないのである。飲んだくれの父の子に麒麟児が生い立ち、人格者のむすこにのらくらができあがるのも、あるいはこのへんの消息・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ 科学教育の根本は知識を授けるよりもむしろそういう科学魂の鼓吹にあると思われる。しかしこれを鼓吹するには何よりも教育者自身が科学者である事が必要である。先生自身が自然探究に対する熱愛をもっていれば、それは自然に生徒に伝染しないはずはない・・・ 寺田寅彦 「雑感」
・・・ しかし、昆虫はおそらく明日に関する知識はもっていないであろうと思われるのに、人間の科学は人間に未来の知識を授ける。この点はたしかに人間と昆虫とでちがうようである。それで日本国民のこれら災害に関する科学知識の水準をずっと高めることが出来・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・ 結語 以上の所説を要約すると、日本の自然界が空間的にも時間的にも複雑多様であり、それが住民に無限の恩恵を授けると同時にまた不可抗な威力をもって彼らを支配する、その結果として彼らはこの自然に服従することによってその恩・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・生徒に実験を授ける際に一度は必ずこういう点にも注意を喚起しなければならぬと思う。紙の尺度や竹の尺度などを比較させて見るもよかろうし、また十グラムの分銅二つと二十グラムの分銅一つとを置換して必ずしも同じでない事を示し、精密なる目的には尺度の各・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・大切りにナポレオンがその将士を招集して勲章を授ける式場の光景はさすがにレビューの名に恥じない美しいものであった。 ムーラン・ルージュはこれと同じようでも、どこかもう少し露骨で刺戟の強いものであった。完全に裸体で豊満な肉体をもった黒髪の女・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
出典:青空文庫