・・・ああ今頃は清軍の地雷火を犬が嗅ぎつけて前足で掘出しているわの、あれ、見さい、軍艦の帆柱へ鷹が留った、めでたいと、何とその戦に支那へ行っておいでなさるお方々の、親子でも奥様でも夢にも解らぬことを手に取るように知っていたという吹聴ではございませ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ なつかしい浮世の状を、山の崖から掘り出して、旅宿に嵌めたように見えた。 座敷は熊の皮である。境は、ふと奥山へ棄てられたように、里心が着いた。 一昨日松本で城を見て、天守に上って、その五層めの朝霜の高層に立って、ぞっとしたような・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ こうして、下界との一切の交通を絶ってしまった佐助は、冬眠中の蛇を掘り出して卑怯の術ではない。めったなことに卑怯はならぬ。まった忍術とは……」「忍術とは……?」 すかさず訊くと、戸沢図書虎先生は雲の上でそわそわとされているら・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・ 皆は、掘出しにかゝった。坑夫等は、鶴嘴や、シャベルでは、岩石を掘り取ることが出来なかった。で、新しい鑿岩機が持って来られ、ハッパ袋がさげて来られた。 高い、闇黒の新しい天井から、つゞけて、礫や砂がバラバラッバラバラッと落ちて来た。・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・いくら上鉱を掘り出したって、何も、自分の得にゃならんのだ。たゞ丸の内に聳えているMのビルディング――彼はそのビルディングを見てきていた――を肥やしてやるばっかしだ。この山の中の真ッ暗の土の底で彼等が働いている。彼等が上鉱を掘り出す程、肥って・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・それを弥が上にもアコギな掘出し気で、三円五十銭で乾山の皿を買おうなんぞという図ずうずうしい料簡を腹の底に持っていたとて、何の、乾也だって手に入る訳はありはしない。勧業債券は一枚買って千円も二千円もになる事はあっても、掘出しなんということは先・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・塵埃が積る時分にゃあ掘出し気のある半可通が、時代のついてるところが有り難えなんてえんで買って行くか知れねえ、ハハハ。白丁奴軽くなったナ。「ほんとに人を馬鹿にしてるね。わたしを何だとおもっておいでのだエ、こっちは馬鹿なら馬鹿なりに気を揉ん・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・それが HERBERT さんだったら、かえって私が、埋もれた天才を掘り出したなどと、ほめられるかも知れないのだから、ヘルベルトさんも気の毒である。この作家だって、当時本国に於いては、大いに流行した人にちがいない。こちらが無学で、それを知らな・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・焼跡の穴から掘り出した食料やお鍋などを、みんなでそのお家に運んだ。私は笑いながら、ズボンのポケットから懐中時計を出して、「これが残った。机の上にあったから、家を出る時にポケットにねじ込んで走ったのだ。」 それは、海軍の義弟の時計であ・・・ 太宰治 「薄明」
・・・ つまらない事ではあるが、拘留された俘虜達が脱走を企てて地下に隧道を掘っている場面がある、あの掘り出した多量な土を人目にふれずに一体どこへ始末したか、全く奇蹟的で少なくも物質不滅を信ずる科学者には諒解出来ない。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
出典:青空文庫