・・・この趣味に附帯して生ずる不純な趣味としては、かような珍品をどこからか掘出して来て人に誇るという傾向も見受けられる。この点において骨董趣味はまたいわゆる蒐集趣味と共有な点がある。マッチの貼紙や切手を集めあるいはボタンを集め、達磨を集め、甚だし・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・これを掘り出し認識するのが未来に予想さるる広義の「学」の一つの使命である。科学も文学も等しくこの未来の「学」の最後のゴールに向かってたどたどしい歩みを続けているもののようにも思われるのである。「文学も他の芸術も、社会人間の経済状態の改善・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 一体これらの言葉あるいはそれに相当する抽象的な概念は自然その物に内存していて、われわれはただ自然の中からそれを掘り出しまたは拾い出しさえすれば宜いものであろうか。それともまたこのようなものを作りあげるに必要な秩序や理法が人間の方に備わ・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・ 八雲氏の夫人が古本屋から掘り出して来たという「狂歌百物語」の中から気に入った四十八首を英訳したのが「ゴブリン・ポエトリー」という題で既刊の著書中に採録されている。それの草稿が遺族の手もとにそのままに保存されていたのを同氏没後満三十年の・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・ 三 運慶が木材の中にある仁王を掘り出したと云われるならば、ブローリーやシュレディンガーは世界中の物理学者の頭の中から波動力学を掘り出したということも出来るであろう。「言葉」は始めから在る。それを掘り出すだけ・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・しかし書籍ならば大概のものは有数な古書籍店に頼んでおけばどこかで掘り出して来てもらえるようである。 それにしても神保町の夜の露店の照明の下に背を並べている円本などを見る感じはまずバナナや靴下のはたき売りと実質的にもそうたいした変わりはな・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・英国はトランスヴールの金剛石を掘り出して軍費の穴を填めんとしつつある。この多事なる世界は日となく夜となく回転しつつ波瀾を生じつつある間に我輩のすむ小天地にも小回転と小波瀾があって我下宿の主人公はその尨大なる身体を賭してかの小冠者差配と雌雄を・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・秋山は子供を六人拵えて、小林は三人拵えて、秋山は稍ずるく、小林は掘り出した切り株の如く「飛んでもねえ世の中」を渡っていた。「何て、やけに吹きやがるんだ! 畜生」 小林はそう云って、三尺鑿の先の欠けた奴を抛りだした。 秋山は運転を・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・「私は于大寺を沙の中から掘り出した青木晃というものです。」「何しに来たんだい。」少しの顔色もうごかさずじっと私の瞳を見ながらその子はまたこう云いました。「あなたたちと一緒にお日さまをおがみたいと思ってです。」「そうですか。も・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・ 神田では三省堂を出てから夜店の古本を見て十銭でエジソン伝など掘出し、あすこの不二家へよってコーヒーとお菓子をたべ、バスで高田の馬場までかえりました。おなかをすかして、とろろで御飯をたべ、それからお風呂に入って、二階へ上ったという順序で・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫