・・・自然があるものを蔵していても、人間がその必要を認めて、それを掘り出したり、精製したりする生産のための活動を開始しなければ、それは全くないも同じだということは、今日国と国とが激烈な争奪戦を行っている石油と石炭についても分る。 さらに文化の・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・ まったく、「バクロウが牛の掘り出しものでもさがすように」新人が売り出された。現代文学の素質は戦後になってから戦時中の荒廃をとりもどすどころか、実名小説にまで低下して来た。一九三三年に石坂洋次郎が、左翼への戯画としてかいた「麦死なず」と・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・咲枝気絶してしまって居たところに、逗子に行って居た一馬がかえり、その手を見つけて、掘り出し救った。春江は歯医者にでも行って居た為に助かる。 ◎国男は一日の朝、小田原養生館を立ち大船迄来、鎌倉へ行こうとして居るとき、震災に会い歩いて鎌倉へ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・だのに、骨を折って石炭を掘り出しても、賃銀をうんと天引きされてしまうのでは、つまり天引き分だけただ働きをすることになって、現実に命がもてません。だから石炭不足がおこり、電力不足もおこるのであって、日本の鉱山労働者がいくじなしなのではありませ・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・しかし、ファシズムは、主観的な、独裁の立場から、そういう風に本当の民族の宝を歴史の段階に応じて掘り出して、それを今日に生かすという角度から自分達の民族の歴史を見る能力をもっていませんでした。世界に対して自分だけが号令をかけようとしたばかりか・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・「墓の中から掘り出したようだわ」「墓の中は好かったね」 七つの喉から銀の鈴を振るような笑声が出た。 第八の娘は両臂を自然の重みで垂れて、サントオレアの花のような目は只じいっと空を見ている。 一人の娘が又こう云った。「・・・ 森鴎外 「杯」
・・・わたくしは宝を掘り出して活かしてこれを用いる。わたくしは古言に新たなる性命を与える。古言の帯びている固有の色は、これがために滅びよう。しかしこれは新たなる性命に犠牲を供するのである。わたくしはこんな分疏をして、人の誚をかえりみない。・・・ 森鴎外 「空車」
・・・それは自然に即してしかも自然の奥秘を掘り出したものである。肉体のはかなさは、本来清浄なる人間の「心性」によって打ち克たれ、そこに永遠なるいのちの、「仏」の、象徴を実現しているのである。―― 人間が幼稚であり素朴であったゆえにこの美を受容・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・を幾つか掘り出してくれた人である。 和辻哲郎 「寺田寅彦」
・・・女の心のすみずみから虚偽と悪徳とを掘り出し、それを容赦のない解剖刀で切り開いて見せる。私は熱して、力を集注して、それをやっていた。傷ついた女の誇り心の反撥が私をますます刺激した。女が最後の武器として無感動を装うのを、さらに摘発し覆さなければ・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫