・・・托児所の揺籃から共学です。そういう点でも気分が自然違うわけで、つまり子供のうちから女と一緒に働き、一緒に仕事をするということから先ず根本の感情が出来ているから非常にはっきりしている。 また女性の性の必然というものをソヴェト位保護している・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・一体、あちらでは、立ち上る位までになった子でない、ほんの嬰児は、多くの場合、彼等の小さい揺籃の中に臥されています。母親は傍に椅子を引寄せて、あやしながらでも、体は自由に仕事が出来ます。いつも母の膝に抱かれているような習慣はありません。そんな・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 縦横に行き違っている太い、細い、樹々の根の網の間には、無数の虫螻が、或は暖く蟄し、或はそろそろと彼等の殻を脱ぎかけ、落積った枯葉の厚い層の奥には、青白いまぼろしのような彼等の子孫が、音もない揺籃の夢にまどろんでいるだろう。 掘り出・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ しとやかにゆるい諧調は千世子の心をふんわりと抱えて揺籃の裡に居る様な気持にした。 篤はしずかに歌をつけた。 低いゆーらりゆーらりとした歌に千世子は涙をさそわれる様な心に柔さが出て来た。 ほんとうに好い曲ですね。・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 美しい絹の帳をたれた揺籃をまだ血気でござったわたくしの白うて力のある手でおだやかな波の上を行く小船の様にゆーらり、ゆーらりとふりながらのう、貴方様。 母親のたまものの人に賞められた声で夜の来る毎にうたったものでござりまする。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ズラリと揺籃を並べ、小さい胸元に金の番号札をつけて眠ったり、欠伸をしたり、元気のいい赤坊唱歌をやったりしてる。 赤坊たちの胸に光ってる金の番号札が、母親の寝台番号だ。三時間おきに、保姆がめいめいの寝台に赤坊をつれてゆき、お乳をのませると・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
出典:青空文庫