・・・椿岳は喜んで受けて五厘の潤筆料のため絵具代を損するを何とも思わなかった。 尤もその頃は今のような途方もない画料を払うものはなかった。随って相場をする根性で描く画家も、株を買う了簡で描いてもらう依頼者もなかった。時勢が違うので強ち直ちに気・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・蓮根でも蒟蒻でもすこぶる厚身で、お辰の目にも引き合わぬと見えたが、種吉は算盤おいてみて、「七厘の元を一銭に商って損するわけはない」家に金の残らぬのは前々の借金で毎日の売上げが喰込んで行くためだとの種吉の言い分はもっともだったが、しかし、十二・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・――一度開けると薪三本分損するの。」 彼女は、桜色の皮膚を持っていた。笑いかけると、左右の頬に、子供のような笑窪が出来た。彼女は悪い女ではなかった。だが、自分に出来ることをして金を取らねばならなかった。親も、弟も食うことに困っているのだ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・其売れる売れないとは毫も文士として先生の偉大を損するに足らぬのである。 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
出典:青空文庫