・・・触ると撓いそうな痩せぎすな、すらりとした、若い女で。……聞いてもうまそうだが、これは凄かったろう、その時、東京で想像しても、嶮しいとも、高いとも、深いとも、峰谷の重なり合った木曾山中のしらしらあけです……暗い裾に焚火を搦めて、すっくりと立ち・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・しかし撓いぐあいはたしかにこのほうが柔らかで、ぎごちなくないように思われる。これに反して木製の柄で割り竹を無理にしめつけたのは、なんとなく手ごたえが片意地で、柄の付け根で首がちぎれやすい。 そんな理屈はどうでもよいとして、こうまでも「流・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・二人分を感じて、私の心は撓うようです。撓いつつ甘美な苦痛を感じて、折れないという自覚のよろこび。 抽象的なことを喋って御免なさい。でも時々はこれもいるのです。私の精神衛生の見地からね。ああ、私共は、沢山沢山感じて生きているのだからね。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫