・・・ところが、一方に告白されているような政治的、経済的無識が彼の現実を見る目を支配しているのであるから、ジイドは基本的なところで先ず自己撞着に陥り、観念の中で、心象の中で、把握している新社会の存在が、その本質に於て、違った土台の上に建っている経・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・それは日本の封建性の圧迫をつねに感じていて、そのために感受性が異常になっている日本のインテリゲンチャの間には、一九二八年以来、奇妙な自己撞着があるということである。その自己撞着は、いつも自我の解放、個人の運命の自由な展開ということについて熱・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・ 家屋の仕事だから、所謂家庭的な空気が負担で、家長的、父的位置と芸術家の心の自在な動きが撞着して、一層の孤立のため旅へ出るとして、やはり家をちゃんとしてくれる女が必要であろう。 文学の仕事と文学を職業とするということの間に矛盾があっ・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
・・・ 政治的成長というものは、いってみればそのような撞着的事象の本体を洞察して、その間から何か積極的な合理的な人間生活建設の可能をとらえてゆく動的な生活的叡智、行動にほかならないのであろうと思う。そして、ある場合には、婦人の真の政治的な成熟・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・の構成要素は、アカデミックな面において強味を加えて来ていると共に、やはり一片ならぬ矛盾、自己撞着を包蔵していることが見える。例えば中河与一氏の万葉精神に対する主観的傾倒と佐佐木信綱氏が万葉学者として抱いていられる万葉精神に対する客観的見解と・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・れを或る尊厳、確信ある出処進退という風に理解すると、今回のオリンピックに関しては勿論、四年後のためにされている準備そのものの中に、主としてそういう抽象名詞を愛好する人の立場から見ても何か本質的にそれと撞着する観念が潜入しつつあることが感じら・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・坂口氏が性的経験の中にだけ実在を把握するといいながら、縷々とそれについて小説を書かずにはいられない矛盾、撞着が女性を性器においてだけ見るという考えの中にそっくり映っている。そしてそれを発見した時、雄々しく堕落しようとする娘たちは、案外自分た・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ここに、営利会社というものの本質からの撞着の姿があるし、働く男女のおかれている社会の条件のむきつけな露出もあると思う。 国家が賃銀制その他をきわめてゆくからには、働く女のための施設について、制度としてそれを各工場や経営に行わせてゆくのは・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・の中でマルクスの心を打ったほど鋭く現実の資本主義商業の成り立ちを喝破していることと撞着するものでないというのが、バルザックの花車を押し出した一部のプロレタリア作家・理論家たちの論拠であったと見られるのである。 ところで、ここに一つの私達・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・さほど遠い過去でないある時期には、プロレタリア作家が人間らしく、正直になるということは取りも直さず、社会の全体性と切り離され、対立的に見られる一俗人としての弱さ、自己撞着などを、何故それが彼の中にあるかという真剣な、真に芸術らしい解剖にまで・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫