・・・ と撥ねかえすばかりなのであった。「大体、文化団体の連中は、ものがわかるようで分らないね。佐野学なんかは流石にしっかりしたもんだ。もっともっと大勢の人間がぶち込まれなけりゃ駄目だと云ってるよ。そうしなければ日本の共産党は強くならないと云・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・暗く厚い壁にぶつかって撥ねかえった文学の姿において、深田久彌氏の「鎌倉夫人」があり、阿部知二氏の「幸福」があり、石坂洋次郎氏「若い人」、舟橋聖一、伊藤整等の諸氏の作品がある。いずれもこれ等の作品は素材の広汎さ、行動性、溌溂さを求めている作者・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・氏は、その文学的出発の当初から、現実の或る面に対しては敏感であったが、その敏感さの稟質は、一箇の芸術家として現実を全面から丸彫にしてやろうという情熱において現れず、常に、現実の一面にぶつかってそこから撥ね返る曲線を自意識の裡で強調する傾向で・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・その叫び声が、高い秋空へ小さく撥ねかえった。赫土には少し、草も生えているし、トロッコの線路も錆びている。 Lをさかさにしたような悠やかな坂をみのえはのぼった。坂の上は草原で、左手に雑木林があった。その奥に池があった。池は凄く、みのえ一人・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
出典:青空文庫