・・・ *新芽をふいた世界は鋭角になり 緑になり平面に延る人間の心を 擾乱する。夜中の雨に じっとりと濡れ膨らんだ細葉を 擡げ 巻き立ち陽を吸う苔を見よ。音が聴えそうだ。又は勁く、叢れ、さっと若葉を・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・一九二八年の秋を見るなら、我々は立ちどころに彼等の擾乱作用を理解するであろう。ソヴェトはその播種面をヨーロッパ戦前の九五パーセントまで回復していたのに、前年より一億プードも少い麦を、而も強制買付けで辛うじて買い上げている。 この年ヨーロ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・この官僚主義者、新生活の擾乱者の標本が、世界無産婦人デーの夜、トラムによってどう撲滅されるか、息をつめて観ている。 外でモスクワは濡れた春のビードロ玉だ。夜が更けるにつれ益々すべっこくなった。モスクワ大学横の暗い坂をタクシーが一台登・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ 全ソヴェト作家団体協議会では、直に、真剣な産業擾乱陰謀についての批判大会を開いた。あらゆるソヴェトの印刷物は、この陰謀発覚について発言した。ソヴェトの社会主義国家とそれをつくる勤労人民の生活をうちこわそうとする帝国主義の悪辣さに対する・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・「革命の与える経済的擾乱ほど悲惨なものはない。」最悪よりはより尠き悪を、大衆による広汎な悪徳の伝播よりは、まだしもブルジョアの今のままでの悪行を! そして、自分が無一文になるよりは腹立たしいが今あるものを手離さず! そういうのがバルザッ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・「十月革命は私の精神に途方もない擾乱と動顛を与えた。」 構成派の影響を多分にうけ、詩集や短篇集を出版していたベラ・インベルは、「十月」が世界的な、震撼的な出来事だということは理解した。が、彼女はどんな大衆的行動にも、歴史的な市街戦にも参・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・ 若しその気分をもう少し強調して云えば、彼等が、昼間は擾乱させられて居た各自の魂を、此の人気ない深夜の間にとり戻して、その魂の持つ感情を、各自の気で表示して居るようだとさえも云えるだろう。 斯う云う真夜中に只一人起きて居ると、余り、・・・ 宮本百合子 「無題(三)」
・・・今名を思い出せないけれども、二十五歳になっているその娘は第一次の大戦のとき姉や先輩たちの経験した女としての感情の擾乱を、自分たちは自分たちの青春の上にふたたびふりかかった歴史の相貌を見きわめて、ふたたびくりかえさず、世紀の波瀾をしのいで生き・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・そうすれば、どんなに軽く見積っても、昨日の十二時以後東京はその非常手段を必要とするだけ険悪な擾乱にあることだけは確だ。 私の思いは、忽ち父の上に飛んだ。父の事務所は、丸の内の仲通りにある。時刻が時刻だから多忙な彼は、どんな処にいて、災害・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・内心の擾乱をじっと抑えて最後に痛苦を現わす眼のひらめき、えくぼの震えとなる。ベルナアルのように動作と叫び声とで見物の官能を掻き乱し、Shudder を送るというような事はしない。この暗示的な、多くを切り離して重要な一部分を示すという演り方、・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫