・・・しかし、一夜に人間を改造することはできない。人間を改造するものは、良心の陶冶に依るものです。芸術の使命が、宗教や、教育と、相俟ってこゝに目的を有するのは言うまでもないことです。 一人の心から、他の心へ、一人の良心から、他の良心へと波動を・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・然し私は、社会改造の事実は各人の信念にその根底を置くものだと考えている。そうして此の信念を民衆の頭に植えつけるのは真の民衆芸術家の為すべき務めであると考えている。独り永久に人間性の為めに戦わなければならないのは、芸術家の義務である。・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・貧しく育った彼は貧乏人の味方であり、社会改造の熱情に燃えていたが、学校の前でその運動のビラを配る時、彼のそんな服装が非常に役に立ったというくらい、汚ない恰好をしていたのである。 もっとも、貧乏だけで人はそんなに汚なくなるものではなかろう・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・ そしてこちらから言いだす前に「改造」や「中央公論」の復刊号を出してくれた。「文春は……?」「文芸春秋は貰ったからいい」「あ、そうそう、文春に書いたはりましたな。グラフの小説も読みましたぜ。新何とかいうのに書いたはりましたン・・・ 織田作之助 「神経」
・・・や「改造」や「新生」や「展望」がどうして武田さんの新しい小説を取らないのかと、口惜しがっていた。私は誇張して言えば、毎日の新聞の雑誌広告の中に武田さんの名を見つけようとして、眼を皿にしていた。そして、見つけたのは「武田麟太郎三月卅一日朝急逝・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・ 最近にはこの国の知性主義者たちも、その非を認めて知性の改造をいうようになった。それはよろこぶべき転向である。しかしながらまだ、彼らが知性の否定や、啓示の肯定をいうようになる時機はおそらく遠いであろう。 われわれは生の探求に発足した・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・僕は、あなたの処へ飛んで行って暗いところで話し度い。改造にあなたが書けば改造を買い、中公にあなたが書けば中公を買う。そして、わざと三円の借金をかえさざる。頓首。私は女です。」「拝復。君ガ自重ト自愛トヲ祈ル。高邁ノ精神ヲ喚起シ兄ガ天稟ノ才・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・申しおくれましたが、当時の僕の住いは、東京駅、八重洲口附近の焼けビルを、アパート風に改造したその二階の一部屋で、終戦後はじめての冬の寒風は、その化け物屋敷みたいなアパートの廊下をへんな声を挙げて走り狂い、今夜もまたあそこへ帰って寝るのかと思・・・ 太宰治 「女類」
・・・ チサの葉いちまいの手土産で、いいのに。三日。 不言実行とは、暴力のことだ。手綱のことだ。鞭のことだ。 いい薬になりました。四日。「梨花一枝。」 改造十一月号所載、佐藤春夫作「芥川賞」を読み、だらしな・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・それにはまず日本の地質から気候から改造してかからなければおそらくできない相談であろう。日ごろからいだいていたこんな考えが昨今カメラをさげて復興帝都の裏河岸を歩いている間にさらにいくらかでも保証されるような気がするのである。 西洋を旅行し・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
出典:青空文庫