・・・と云ったら渋ってけっかる。いまいましい、腕づくでもぎ取ってくれようとすると「オオ神様泥棒が」って、殉教者の様な真似をしやあがる。擦った揉んだの最中に巡的だ、四角四面な面あしやがって「貴様は何んだ」と放言くから「虫」だと言ってくれたのよ。・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・ 今より十七八年前、誰やらが『我は小説家たるを栄とす』と放言した時、頻りに其の意気の壮んなるに感嘆されたが、此の放言が壮語として聞かれ、異様に響きて感嘆さるゝ間は小説家の生活は憐むべきものであろう。が、当時は此の壮語を吐いて憤悶を洩らす・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ これは、放言でもなく、壮語でもなく、かざりのない真情である。ほんとうによくわたくしを解し、わたくしを知っていた人ならば、またこの真情を察してくれるにちがいない。堺利彦は、「非常のこととは感じないで、なんだか自然の成り行きのように思われ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 是れ放言でもなく、壮語でもなく、飾りなき真情である、真個に能く私を解し、私を知って居た人ならば、亦た此の真情を察してくれるに違いない、堺利彦は「非常のこととは感じないで、何だか自然の成行のように思われる」と言って来た、小泉三申は「幸徳・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・私たちの言葉は、ちょっと聞くとすべて出鱈目の放言のように聞えるでしょうが、しさいにお調べになったら、いつでもちゃんと歯車が連結されている筈です。生活の違いかも知れません。こんな言いわけは、気障な事です。悲しくなりました。よしましょう。私が、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・いよいよ酔漢の放言として、嘲笑されるくらいのところであろう。唐突に、雪溶けの小川が眼に浮ぶ。岸に、青々と芹が。あああ、私には言いたい事があるのだ。山々あったのである。けれども、急に、いやになった。なぜか、いやになった。いいのだ。私は永久に故・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・あの、不吉な病院から出た時、自動車の中で、私の何でも無い抽象的な放言に、ひどくどぎまぎしたHの様子がふっと思い出された。私はHに苦労をかけて来たが、けれども、生きて在る限りはHと共に暮して行くつもりでいたのだ。私の愛情の表現は拙いから、Hも・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・自分の怪しう物狂おしいこの一篇の放言がもしやそれと似たような役に立つこともあれば、それによって幾分か僭上の罪が償われることもあろうかと思った次第である。 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・従って上記のごときは俳壇の諸家の一粲を博するにも足りないものであろうが、しかし全然畑違いのディレッタントの放言も時に何かの参考になることもあろうかと思って、ただ心のおもむくままをしるしてみた次第である。多忙と微恙に煩わされてはなはだまとまり・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・それは犬殺しが何処かで赤犬の肉を註文されて狙いをつけたのだから屹度殺してやるとそこらで放言して行ったということを知らせる為めであった。文造は心底から大事と思って知らせたのであったが然し此は知らなかった方が却て太十にも犬にも幸であったのである・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫