・・・で、十時の算術が済んだ放課の時だ。風にもめげずに皆駆出すが、ああいう児だから、一人で、それでも遊戯さな……石盤へこう姉様の顔を描いていると、硝子戸越に……夢にも忘れない……その美しい顔を見せて、外へ出るよう目で教える……一度逢ったばかりだけ・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ あくる日銭を貰うて先ず学校へ行ったが、教場でも時々絵の事に心を奪われ、先生に何か聞かれても何を聞かれたか分らぬような事もあった。放課のベルを待ち兼ねて学校を飛出し、信さんに教わった新店を尋ねたら、すぐにわかった。店へはいると一面に吊し・・・ 寺田寅彦 「森の絵」
・・・午前中その実習をして放課になった。教科書がまだ来ないので明日もやっぱり実習だという。午后はみんなでテニスコートを直したりした。四月二日 水曜日 晴今日は三年生は地質と土性の実習だった。斉藤先生が先に立って女学校の裏で・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ 一日中で一番長い放課時間に、彼女はよく、校舎の後を抱えるようにしてこんもりと茂り、いつも青々としている小高い森へ入って行った。 そこから少し低くなっている彼方を見渡すと、白い小砂利を敷いた細道を越えた向うには、馬ごやしの厚い叢に縁・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫