・・・それは、この怪異はセントエルモの火、あるいはこれに類似の空中放電現象と連関したものではないかという事である。 右の磯氏の記述によるとこのギバの現象には二説ある。その一つによると旋風のようなものが襲来して、その際に「馬のたてがみが一筋一筋・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・そういう行きがかりで晩年自分が某研究所に入って自由に好きな研究の出来るという幸福な身分になったとき、別にわざわざ選ぶともなく自然に選んだ研究題目の一つは空中放電現象のそれであった。もちろんそれに関して私のこれまでに得た研究の結果は、学界に対・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・時としては天の真上で稲光がしてやはり音の聞えぬ事がある、これはブラシ放電と名づける現象で、この時の光の色を分析してみると普通の電光とちがう事が分る。稲妻が光る度に稲が千石ずつ実るという云い伝えがあるが、どういう処から割り出したものであろう。・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・もっとも、上述の中でも、噴泉塔の縞や、鈴木君の円板の割れ目などもむしろこの放射型に属するものであったが、このいわゆる放射縞の現象の中で、最も顕著で古くから知られているものの一つは、放電のリヒテンベルグ形像である。これの陰極像などは立派に週期・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 当時北軽井沢で目撃した人々の話では、噴煙がよく見え、岩塊のふき上げられるのもいくつか認められまた煙柱をつづる放電現象も明瞭に見られたそうである。爆音も相当に強く明瞭に聞かれ、その音の性質は自分が八月四日に千が滝で聞いたものとほぼ同種の・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・の分布の問題、リヒテンベルク放電像の不思議な形態の問題、落下する液滴の分裂の問題、金米糖の角の発生の問題、金属単晶のすべり面の発生に関する問題また少しちがった方面ではたとえば河流の分岐の様式や、樹木の枝の配布や、アサリ貝の縞模様の発生などの・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・空中電気というとわかったような顔をする人は多いがしかし雨滴の生成分裂によっていかに電気の分離蓄積が起こり、いかにして放電が起こるかは専門家にもまだよくはわからない。今年のグラスゴーの科学者の大会でシンプソンとウィルソンと二人の学者が・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・同教授にはかつてその本国で会ったことがあるばかりでなく、その実験室で北光に関する有名な真空放電の実験を見せてもらったり、その上に私邸に呼ばれてお茶のごちそうになったりしたことがあったので、すぐに昔の顔を再認することができたが、教授のほうでは・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・ 私は、数年前、高圧放電の火花に関する実験をしているうちに、次のような生理的光学現象に気づきそれについてほんの少しばかり研究をした結果を理化学研究所彙報に報告したことがある。 長さ数センチメートルの長い火花を写真レンズで郭大した像を・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・前世紀の末頃までは原子までで事が足りていたが、真空中放電の研究や放射能性物質の研究から更に原子の内部構造を考えなければならぬ破目になって、ここにエレクトロンなるものが発見される事になった。今日ではほとんどこの電子の実在を疑う者はない。放射性・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
出典:青空文庫