・・・ 十幾年振りかで故国に帰り、それと、結婚したからこそ帰る気にもなったと云うような彼に対して、自分は、あらゆる温みをこめて、此小世界に幾月かを費すことを信じて居た。 私の部屋として建てられた八畳と四畳ほどの部屋は、自分等二人を容れるに・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・私のように、中国文化について知らない者でさえも、謝冰心女士の名は聞いて久しいし、郭沫若と云えば、彼が日本の家の内に愛妻と愛子たちとをのこし故国へ向って脱出した朝の物語までを、心に銘して知っている。 だが、中国の社会の歴史は、近代企業とし・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・するとその翌朝故国から来た弟の手紙が、計らずもその先生の断片的な消息を齎して来た、私は生れて始めて、此丈符合した夢を見た。人が呼ぶ偶然の裡には不思議がある。 考えて見れば、大人だと思っていた先生も彼の頃はまだ真個の青年で居られたのだ。恐・・・ 宮本百合子 「追慕」
・・・それは、日本を愛するわが故国として初めて地理的にも客観する立場に立ったことのおどろきと新鮮な感動、同時に、身辺に熱い音を立てて流れめぐり諸関係を変化させつつある地つづきの諸国の社会的推移の様へのつきない興味とから、これ迄その作家が思いもそめ・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・この夏、八月一日、故国で次弟英男が自殺した。彼が姉にあてて書いたまま出さなかった最後の手紙に、何ものをも憎むなという文句があった。彼の予期しなかった死=没落と日夜目撃してその中に生きるソヴェトの燃えつつ前進する新社会相は、両面から自・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ 作品に漂う独特な優雅や敏感、または、人類の理想的生活に対する憧憬、現実に対する批判、永遠に達せんとする叡智等も、皆、ここに還るべき故国を持っているのではございますまいか。maternal tenderness という概念は普遍的である・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・証拠には、あの一団の日本人の実際生活が、ベルリン大衆の革命的高揚とどういう関係にあり、かつまた遠い故国日本の階級的進展とどういう血の通った関係にあるかという基礎的な階級的位地が、弁証法的具体的に描き出されていない。 一群の日本人は、切り・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・ソヴェト同盟の大衆は、イタリーにいた五年の間にゴーリキイが、故国で行われている新しい建設に対して絶間ない注意を払い、その文筆活動を通してソヴェト同盟の建設の意味を世界に向って語っていたことを知ってはいる。しかし、彼等が必死の努力で日々を過し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・「自分は故国にいる無限に多い他人――その他人の中でもよりよい人々の中の最初の人間と私との親交は、このようにして終った。」 この物語はゴーリキイにとって記憶から消えぬものであったと共に、今日の読者である私たちの心をも少なからず打つものがあ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・「自分は故国にいる無限に多い他人――その他人の中でもよりよい人々の中の最初の人間と私との親交は、このようにして終った。」 この物語はゴーリキイにとって記憶から消えぬものであったと共に、今日の読者である私たちの心をも少なからず打つものがあ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫