・・・千二百十二年の三月十八日、救世主のエルサレム入城を記念する棕櫚の安息日の朝の事。 数多い見知り越しの男たちの中で如何いう訳か三人だけがつぎつぎにクララの夢に現れた。その一人はやはりアッシジの貴族で、クララの家からは西北に当る、ヴィヤ・サ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・まだ二十位の青年の時代に或る時は東洋の救世主を以て任ずるような空想な日を送って、後になって、余り自分の空想が甚だしかった事と、その後に起る失望、落胆の激しい事に驚いた、と書いたものなぞもある。或る時は又一個の大哲学家となって、欧洲の学者を凹・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・p.278○彼のこの救世主の文書は――暗黒の印象を与える。p.279 笞のようにビザンティンの十字架を手にした極悪な狂信的な中世紀の僧侶、恰もそんな風に彼は政治家、宗教的狂信者としてわれわれに向って来るのである。p.279○口角・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・ヨーロッパを救うという義務は、アメリカが全人民生活の安定を保ちながら、どこまで負担し、実現し得ることか、救世主めいた誇大な表現をさけよ、という声がきこえている。しかし、その半面では西ヨーロッパと東ヨーロッパの対立を挑発し、また秘密計画Xと金・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・これを霊験あらたかな熊野権現の前身としてながめていた人々にとっては、十字架上に槍あとの生々しい救世主のむごたらしい姿も、そう珍しいものではなかったであろう。 ところでこの苦しむ神、蘇る神の物語は、『熊野の本地』には限らないのである。有名・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫