・・・厩の中の御降誕のことを、御降誕を告げる星を便りに乳香や没薬を捧げに来た、賢い東方の博士たちのことを、メシアの出現を惧れるために、ヘロデ王の殺した童子たちのことを、ヨハネの洗礼を受けられたことを、山上の教えを説かれたことを、水を葡萄酒に化せら・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・一軒の家の戸を敲いて、ようやく松川農場のありかを教えてもらった時は、彼れの姿を見分けかねるほど遠くに来ていた。大きな声を出す事が何んとなく恐ろしかった。恐ろしいばかりではない、声を出す力さえなかった。そして跛脚をひきひきまた返って来た。・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・と、忘れたと云って教えなかった。「――まだ小どもだったんですもの――」 浜町の鳥屋は、すぐ潰れた。小浜屋一家は、世田ヶ谷の奥へ引込んで、唄どころか、おとずれもなかったのである。 まだ少し石の段の続きがある。 ――お妻とお・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・それをだれが教えたか嬶に教えたから、嬶がそれ火のようになってあばれこんだとさ」「うん博打場へかえ」「そうよ、嬶のおこるのも無理はねいだよ、婆さん。今年は豊作というにさ。作得米を上げたら扶持とも小遣いともで二俵しかねいというに、酒を飲・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ 僕が英語が出来るというので、僕の家の人を介して、井筒屋の主人がその子供に英語を教えてくれろと頼んで来た。それも真面目な依頼ではなく、時々西洋人が来て、応対に困ることがあるので、「おあがんなさい」とか、「何を出しましょう」とか、「お酒を・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・特にワグマンについて真面目に伝習したとは思われないが、ブラシの使い方や絵具の用法等、洋画のテクニックの種々の知識を教えられた事はあるようだ。明治八、九年頃の画家番附に淡島椿岳の上に和洋画とあるのを以て推すと、洋画家としてもまた相応に認められ・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・しかしながら地質学、動物学を教えることのできる人は実に少い。文学者はたくさんいる、文学を教えることのできる人は少い。それゆえにこの学校に三、四十人の教授がいるけれども、その三、四十人の教師は非常に貴い、なぜなればこれらの人は学問を自分で知っ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・それから段々話し込んで、に尾鰭を付けて、賭をしているのだから、拳銃の打方を教えてくれと頼んだ。そして店の主人と一しょに、裏の陰気な中庭へ出た。その時女は、背後から拳銃を持って付いて来る主人と同じように、笑談らしく笑っているように努力した。・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・墓地は雪に埋まっていましたけれど、勇ちゃんは、木に見覚えがあったので、この下にお姉さんが眠っていると教えたのでした。「先生、私はお約束を守っておあいしにまいりました。それだのに、先生は、もうおいでがないのです。私は、ひとりぽっちで、さび・・・ 小川未明 「青い星の国へ」
・・・と見えて、一枚の布団の中から薄禿の頭と櫛巻の頭とが出ている。私はその横へ行って、そこでもまたぼんやり立っていると、櫛巻の頭がムクムク動いて、「お前さん、布団ならあそこの上り口に一二枚あったよ。」と教えてくれた。 で、私はまた上り口へ・・・ 小栗風葉 「世間師」
出典:青空文庫